少年期[655]過去に一度だけ起きた
「今入ったパーティーの戦いが終われば、次は俺たちの番だな」
「そうね……いったいどんな魔物がボスとして現れるのか、ちょっとドキドキね」
六十階層のボスは聖属性の魔物がランダムで現れる。
ゼルートと出会うまでのアレナなら、もっと緊張した様子で順番が回ってくるのを待っていたが、今はドキドキすると言いながらも表情には余裕がある。
「今入った冒険者たちがボスに勝てるか否かにもよるよな」
「勝てずに殺される帰還石を使って地上に戻れば、弱ったAランクの魔物が残ってるのか……それは少々つまらないな」
ルウナとしてはやはり万全な状態のAランクを倒したいという気持ちが強い。
「……どうなるだろうな。今入ったパーティーが弱いとは思わない。ただ、飛び抜けて強い奴がいたかって言われると……それはどうだろうかって感じだよな」
「ゼルートと比べればどんな冒険者も飛び抜けた存在にはならないわよ……けど、簡単に負けるようなパーティーではなかった筈よ」
一つ前に並んでいたパーティーだったので、チラチラと身に着けている装備をチラ見していた。
本人のレベルや装備の質を考えれば、Aランクのボスに勝っても不思議ではない。
「ここまで降りてくる冒険者だ。上手く判断して行動すればボスを相手に勝つか、それとも逃げるから……判断を誤らなければ、死ぬことはないだろ」
マジックアイテムの中にはダメージを身代わりしてくれるアイテム等があり、このボス戦に関してはそんな相手を使ってでも勝つ価値がある。
「そうか……しかし、どんな魔物がボスとして現れるのかは気になる」
「アレナはどの魔物が現れてほしいとかあるか?」
「現れるボスはどれもAランクよ。どの魔物が出ても素材としてはおいしいから、どれでも良いってのが正直なところね……でも、一つだけこいつは現れてほしくないって魔物ならいるわ」
その魔物にアレナは遭遇したことがなく、過去にその魔物が偶々六十階層のボスとして現れたと人伝に聞いただけ。
だが、その話は紛れもない事実。ギルドの公式記録にも記されている。
「へぇ~~、それはいったいどんな魔物なんだ?」
「セイクリッドドラゴン。Sランクのドラゴンよ」
「……はっ!? えっ、ここって……Aランクの魔物しか出現しないんじゃないのかよ」
「基本的にはそうよ。でも、過去に一度だけ現れたことがあるそうよ」
「アレナ殿。ホーリードラゴンではなく、セイクリッドドラゴンなのですな」
「えぇ、そうよ」
ホーリードラゴンの上位存在であるセイクリッドドラゴン。
偶然にもボス部屋にダンジョンイレギュラーが発生し、ホーリードラゴンではなくセイクリッドドラゴンが出現した。
最初に遭遇した冒険者は咄嗟の判断で戦う前に帰還石を使用して地上に戻り、すぐさまギルドに報告。
その報告にギルド職員はそんな馬鹿なことが起こる訳ないと疑ったが、実際に遭遇したパーティーはギルドから信頼度が高い。
そのあまりにも必死な形相と頼みにギルドマスターが直接話を聞き、特別討伐隊が編成された。
特別討伐が六十階層のボス部屋に到着するまで中に入った冒険者はボス部屋にセイクリッドドラゴンがいるとは知らず、帰還石を偶々持っていなかった冒険者たちは瞬く間に殺された。
最初のパーティーだけではなく、続々と六十階層のボス部屋にセイクリッドドラゴンが現れたという情報が持ち込まれ、ギルドはパニック状態になった。
「そのセイクリッドドラゴンが現れた時って、帰還石が使用不可にはならなかったのか?」
「ならなかったみたいよ。もしそうなったら……大勢の冒険者が倒されるまで犠牲になったでしょうね」
冒険者には酷な状況……それは数多くあるが、ダンジョンのボス部屋では稀に帰還石が使用できないところがある。
一瞬で地上へと帰ることができる帰還石……そんな緊急脱出装置が使えない状況で、目の前には自分たちが百二十パーセントの力を出しても倒せない凶悪な魔物が立っている。
そんな状況、絶望以外のなにものではない。
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