少年期[653]直接手を下さずとも
「ゼルート、あなたちょっと怖い笑みを浮かべてるわよ」
「ん? そうか。まぁ……結構強い奴を造るつもりだからな」
「デスナイトの素材や魔石を使った錬金獣ねぇ……他の魔物の素材も使うのでしょ」
「あぁ、勿論だ。多くの素材を使ってこそ意味がある。そうだな……あっ」
「……何よ。何を思い付いたのよ」
何かを思い付いたゼルートは今度造ろうと思ったデスナイトをベースにした錬金獣について、深く考え過ぎて一瞬アレナの声が耳に入って来なくなった。
「ゼルート、大丈夫なの?」
「おっと、すまん。ちょっと考え込み過ぎてた」
「何か良い考えが浮かんだのですか、ゼルート殿」
「そうだな……うん、良いアイデアだと思う。考え付いたアイデアが実現すれば、かなり強力な錬金獣が造れるかもしれない」
「本当に嬉しそうね。どうせなら錬金獣の騎士団でも造ったらどう?」
何気なく呟いた一言。
しかしその一言がゼルートの創作欲を掻き立てた。
「騎士団か……ありかもな。チェスの軍団は実家用に造ったけど、他は俺が思うままに造っただけだからな……騎士団をイメージして造るのもありか。それだと鎧系の魔物だけじゃなくて、魔力が高い魔物も狩った方が良さそうだな」
「…………ねぇ、私もしかして余計なことを言っちゃった?」
更に自分の世界へと入ったゼルートを見たアレナは、失言してしまったのではと不安に思い始めた。
「そんなことはないのではないか? 戦力が増えるのは良いことだ。ゼルートは戦うことだけじゃなく、何かを造ることも好きなのだから、創作の目標があっても良いと思うぞ」
「私も同意見ですね。なにより、どんな騎士団が生まれるのか楽しみです」
「私も楽しみだな。ゼルート殿が造る錬金獣はどれも素晴らしい。是非模擬戦の相手になってほしいものだ」
「なんかよく解からないけど、楽しそうだね!!!」
「……皆楽しそうね」
余計な一言を言ったかもしれないと不安を感じた自分が馬鹿だと思えた。
仲間であるゲイルたちはこれから造られるかもしれない騎士団に対し、不安という感情を全く持っていなかった。
アレナも錬金獣の騎士団が造られることに対して不安を持っていないが、騎士団を造った結果どうなるか……その後が少々不安に感じていた。
(ゼルートの力があれば、国とも戦争できるかもしれない。そう思ってたけど……これから倒していく魔物次第では、ゼルートが直接手を下すことなく錬金獣の軍団だけで国を落とせるかもしれない……解ってはいた事だけど、一つのパーティーが持つ戦力としてはあまりにも大き過ぎる)
この力が知れ渡れば他国がゼルートの力を得ようと、あの手この手を使って勧誘、もしくは誘惑し始める。
「ゼルート、あなたの趣味を止めるつもりはないけど、やっぱり錬金獣はあまり人前で出さない方が良いと思う」
「それは解ってるって。いざって時、もしくは必要な時にしか使わないから安心してくれ」
「えぇ、そうね……分かった」
色々と冷静に考え、アレナは一旦頭を冷やした。
冷やしたが、直ぐに多くのことを考えてしまう。
(近いうちに起こる戦争でゼルートが大活躍するのは目に見えてる。そうなれば爵位を貰う可能性が高い。ゼルートのお父さんであるガレンさんだって冒険者から貴族になったのだから、ゼルートが同じ道を辿ってもおかしくない。そ、そうなれば領地とか貰うのかしら? でも、ゼルートの性格からして冒険に満足するまで領地の経営とかしたくないだろうし……その場合はどうなるのかしら? というか、ゼルートが領地を経営し始めたりしたら絶対に他の貴族と揉めるわよね)
冒険者である現在でも、貴族と揉めるのは珍しくない。
だが、冒険者から貴族になれば更に貴族と揉める機会が増えるのは必然といえる。
(戦争で活躍したら騎士……いや、一気に男爵までいく? ゼルートだったら戦争が終わってからも多くの功績を得るでしょうから……将来的に子爵……もしかして伯爵の爵位を得たりする、のかしら?)
普通は全く現実味のない話だが、対象がゼルートになるとそんなことはないと一蹴できなかった。
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