少年期[650]美しく暴れていた

「俺はジェネラルとの戦いに集中してたから見てなかったけど、随分と暴れたみたいだな」


「……いつもより戦意が溢れ出してたのは認める。でも、狂戦士の様な戦い方はしていなかった筈よ」


「勿論、私の様に荒い戦い方ではなかったぞ。ただ、いつものアレナと比べて雰囲気に棘があったというか……更に鋭くなっていたのは間違いない」


ルウナの考えとゲイルたちの答えは同じなので、三人共うんうんと頷いていた。


アレナの戦い方はいつもと同じく美しさはあった。しかしその速さは普段と比べて段違いであり、敵に攻撃する間を与えなかった。

そして攻撃には美しくも、どこか荒々しさを感じさせた。


「だってさ」


「仕方ないじゃない。相手はホーリーリビングデットの軍団だったのよ。さっさと潰すに越したことはないでしょ」


「まぁ、普通はそうだな。でも今は闇槍を持ってるんだし、焦る必要はなかったんじゃないのか?」


「はぁーーーー……奥にアークリッチが複数いて、その奥には更にジェネラルがいる。その状況で多少なりとも焦らないのはおかしいでしょ」


「……確か魔物のランク的にはそうかもしれないな」


Cランクの中でもトップクラスの魔物が大量。

そしてその奥には魔法に特化したBランクの魔物が複数と、体格もステータスもCランクと比べ物にならないジェネラル種のBランク。


Aランクの冒険者パーティーであっても、多少の危機感が芽生える相手と言えるだろう。


「でもアレナ、良く思い出せよ。俺たちはダンジョンから溢れ出した魔物を相手に生き残ったんだ。それに俺が戦ったのはSランクの悪獣だ。今更Bランクぐらいで焦らなくても良いだろ」


「……そういえばそうだったわね。分かった、もういちいち慌てず落ち着いて対応する」


ここでアレナは自分の常識を完全に捨てた。

例えこれからCランクの魔物が大群で現れたとしても、複数のBランク魔物と遭遇して慌てずに対処する。


心からそうしようと決めた。


「にしても……ルウナ、お前が倒したナイトやランサー……ヤバくないか?」


「は、はっはっは! アレナの戦いっぷりに影響されて少しテンションが上がってしまってな。ついやり過ぎてしまったのは認める」


ルウナが両手に纏う炎狼の火力は燃やすという域を超え、敵の体を完全に溶かしていた。


数体程倒したところで正気に戻り、なるべく素材を傷付けない戦い方にシフトしたが、その数体は派手に溶かされていた。


「リビング系の魔物は素材さえ残ってれば溶かしてインゴットにできるらしいから良いんだけどさ……もしかしなくても、炎狼の火力が上がった?」


「そのようだな。私もあまり意識していなかったが……気付いたら鎧が熔けていた」


「……炎狼の火力が上がったのは素直に喜ぶべきことだな。よし、回収して直ぐ次に進もう」


魔物との戦いはウェルカムだが、今回ダンジョンに潜っている目的は忘れていない。

六十階層のボス部屋に潜む魔物を倒し、聖魔石を手に入れる。


絶対にそれだけは完了しなければならないので、それなりに急ぎながら下へ下へと向かう。


「順調だな……ここらで一つ、何か起きそうな気がしないか?」


ホーリーリビングデットの軍団と遭遇してから二日が経ち、ゼルートたちは五十九階層を探索中。

そこに辿り着くまで何度も魔物と遭遇してきたが、劇的に強い魔物とは遭遇していない。


面倒な罠に引っ掛からず、同業者に絡まれることなく階層を順調に下っていた。


「ゼルート、それってフラグって言うのでしょ? あまり口に出さない方が良いと思うのだけど」


「実際に口に出しただけで……って油断してたら厄介な状況に遭遇するんだったな。でも、こうも何もないと……ちょっと暇じゃないか」


「魔物と遭遇して戦って、罠を避けて宝箱を発見。どう考えても冒険者らしくダンジョン探索をしてると思うのだけど」


「そうかもしれないけどさ……まっ、六十階層のボス部屋に入ればそれなりに強い魔物と戦えるんだし、何も起こらないのもありか」


それはそれでありだ。

なんて考えていると、数時間後に立てたフラグを回収することになった。

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