少年期[646]それがバレることはない

「なにはともあれ、宝箱を多くゲット出来るのは嬉しい限りだけどな」


「その通りね。中に入ってるのが硬貨でもマジックアイテムや武器だとしても、冒険者からしたら全てお宝。それに錠の解除はゼルートがミスなく行ってくれるし」


全ての宝箱の錠に罠が仕掛けられている訳ではないが、下の階層で発見される宝箱ほど解錠の難易度は上がる。

ただ、ゼルートはそんな罠をあっさりと解錠してしまう。


(一パーティーにゼルートが一人ほしい感じよね。ここまで何でも出来る冒険者はこの世にいないでしょうけど)


冒険者のなんでも出来るという領域を大きく超えている。

戦いでは多数の武器が使え、魔法も使える。遠距離や近距離攻撃、どちらもハイレベル。


そして索敵能力や罠の解除の腕も一級品。

それに加えて料理ができて錬金術もそれなりの腕を持っている……冒険者の歴史上、これほどまでにマルチな才能を持つ冒険者は今まで現れたことがなかった。


「褒めたって何も出ないぞ」


「そんな欲はないわよ。ただ事実を言っただけ」


「そうか。まっ、他の冒険者たちが取り損ねた宝箱は俺たちが全部頂こう」


「……それは全く構わないと思うが、そうすると他の冒険者から恨まれたりしないか?」


他の冒険者から恨まれるのを避ける為に、あまり宝箱を多く取り過ぎないようにする者もいる。

実際にあまりにも宝箱を多く発見してパーティーが他の冒険者から恨みを買ってしまい、ダンジョン内で闇討ちされた……そんな例は決して少なくない。


「あぁ~~……そうね、確かにそういったケースは起こり得る。でも、私たちの場合は特に問題無いと思うわよ」


「どうしてだ?」


「私たちは普段からギルドで宝箱の中から手に入れた物を売ってないでしょ。だから他の冒険者たちが私たちが一回の探索でどれだけの宝箱を手に入れたかなんて、調べる方法はないのよ」


「……それもそうか」


「でしょ。それに私たちを闇討ちしようなんて馬鹿は……いるかもしれないけど、この階層まで潜って来てわざわざ私たちを殺そうとする人は少ないでしょうね」


「リスクが高いからか?」


当たり前の話だが、ダンジョンの階層は下に行けば行くほど魔物は強くなり、罠の被害は大きくなる。

そんな階層までわざわざ降りてゼルートたちの様な傑物が六人も揃ったパーティーに襲い掛かるなど、あまりにもリスクが高過ぎる。


「それが一番ね。下の階層になれば魔物は強さだけじゃなく、索敵能力も高くなる。さっきルウナが倒したワイルドグレーターボアだって鼻で私たちの居場所を発見した筈よ」


「気配を消して移動するのが上手い者でも、魔物との戦闘を躱しながら俺らを狙うのは難しそうだな」


「難しいどころじゃないわよ。どう考えても無理ね。ゼルート、あなた自分が他の同業者や暗殺者にやられると思うの」


「……世の中広いと思うけど、そこら辺の奴らには絶対に負けないと思ってる」


「そこら辺の奴じゃなくても、あなたを倒すことは不可能に近いわよ。それにプラスして私たちがいる……この状況を考えて、六人の中の誰かが殺られると思う?」


「思わないな」


素直な感想だった。

冒険者だけではなく、魔物を入れてもトップクラスに入る者たちが六人も揃っている。


例えトップクラスの暗殺者が相手ででも、六人の警戒網をすり抜けて暗殺することは不可能に近い。


「そういう訳だから、私たちが貴重な魔物を倒したり他の冒険者がゲットできなかった宝箱を回収しても、恨めても何かできる冒険者はいないってことよ」


慢心に聞こえる言葉だが、事実として六人全員を纏めて殺せる者は存在しない。

それはゼルートもなんとなくそうだろうなと思っていたが、万が一の可能性は考えていた。


(俺たちが纏まって行動していれば、誘拐したり殺せる奴はいない……ただ、気を付けるべきはダンジョンの輪何も存在する転移系だな)


ルウナとアレナも着々と強くなっているが、まだまだ人外の域は出ていない。

少々過保護なゼルートは都合の良いマジックアイテムはないものかと、真剣に考え始めた。

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