少年期[644]壊れたらそれは災難

「冒険者たるもの、準備は怠らないものよ」


「それはそうだろうけど……どっかに間抜けがいるかもしれないだろ」


「……探せばいるかもしれないわね。でも、五十一階層以降に潜る冒険者なら、しっかりと準備してから潜る筈よ。仮に闇属性の武器を所有してないパーティーがいれば……戦闘中に壊されてしまった。それが妥当ね」


アレナの記憶上、本当の意味で下層に潜る冒険者たちは最低限の用意は必ず行う。

どれだけ自分たちの実力があったとしても、そこから先は一歩間違えれば地獄だということを知っている。


それを知ってしまったが故、わざわざその地獄に行くことをやめる者が現れる。

冒険することを諦め、なるべく生き残りやすい場所でモンスターを倒し、生きていくための金を稼ぐ。


夢を見ている若者からすればだらしなく見えるかもしれないが、その選択肢が悪いは断言出来ない。


死ねば上手い飯が食えなくなり、大切な友人や家族、愛する者と二度と会えなくなる。

それをリアルに感じ、心の底に刻み込まれてしまうと……自らの手に負えない死地に行こうと思えなくなってしまう。


冒険者を続けていれば、いざという時に勇気が出せるかもしれない。

だが、普段から安全地帯の先に行こうとはしなくなる。


「戦闘中に壊された、か……それは残念無念だな。探索している最中に宝箱からゲットできれば幸いだよな、そういう場合」


「そうね。でも、そういう時に限って欲しい物が手に入らなくなる者なのよ」


経験者は過去の苦い経験を思い出しながら語った。


(欲しい物があると、そういう時に限って手に入らない。なんか名言? みたいな感じだな。実際にそうなったら誰も悪くないのにパーティーの雰囲気が悪くなりそうだな)


ゼルートの考えは決して珍しくなく、細かなミスや奇襲などがかさなりパーティーの雰囲気が悪くなると、自然と喧嘩することが増えて最終的に全滅してしまうことがある。


「ふむ……だが、闇属性の武器がなくとも他の属性で対抗すれば良いのではないのか? 確かに光属性の相手には闇属性が付与され攻撃でなければ弱点は突けないが、この階層まで潜れる冒険者であれば、他にも攻撃手段を持ってる筈だろ」


「それはそうね……でも、今まで楽に倒せていた敵が簡単に倒せなくなってスタミナや魔力の減りが速くなる。そうなるだけでパーティーの雰囲気が悪くなることもあるし……まっ、なんでも念入りに準備しておくことに越したことはないのよ」


「さずが先輩の言葉は重みがあるな。念入りに準備か……なら、俺たちは運良く準備出来てたって訳だな」


ゼルートたちが今持っている武器の中で、アレナが使っている闇槍が一番ランクが高い。

だが、その闇槍意外にも闇属性が付与された武器を持っている。


そして……そもそも属性が付与された武器を使わずとも、ぜうーとが闇魔法を使える。

仲間の武器に闇の魔力を付与する事も出来るので、光属性の魔物の弱点を突くなど武器に頼らずとも行える。


「ゼルートは良いわよね……闇魔法が使えて」


「魔法に関してはちょっとぶっ壊れてるみたいだからな」


「多くの属性魔法が使え、体術や武器術の強さも尋常ではない。まさに隙無しの手札の多さだ」


ある程度属性魔法が使えるようになれば、その属性を武器に付与出来るようになる。

しかし多くの者が同レベルまで鍛え上げることができない。


「確かに……ゼルートほど多くの属性魔法をハイレベルで扱える人はいないでしょうね……ランクBの魔物でも闇魔法だけで倒せるんじゃないの?」


「それはどうだろうな……ホワイトパレスの下層に生息しているレベルの光属性の魔物と戦ったことはないからな……まぁ、もしかしたら魔法だけで倒せるかもな。ただ……さすがに一撃で倒すのは難しいと思うぞ」


「魔法だけで……しかも一人だけで倒せるって時点で図う分に凄いわよ」


一般的な魔法使いは放つ魔法のコントロールを制御するために、体の近くから魔法を放つ。

だが、熟達した魔法使いは自身の体から離れた場所からでも魔法を放てる。


そしてゼルートの場合は高速で移動しながら魔法を撃てるので、ノーダメージで高ランクのモンスターを魔法だけで倒すことも不可能ではない。

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