少年期[621]熱くはなく心地良く

ゼルートたちと進化したエボルサーペントの激闘は十分ほど続き……結果だけ言えば、ゼルートたちの圧勝で終わった。


「……終わってしまった」


「そうですね、終わってしまいましたな」


「いや、二人共なんでそんな残念そうな顔をしてるのよ」


無事に討伐に成功した。

六人に怪我は無く、エボルサーペントの体もそこまでボロボロになっていない。


(二人の気持ちは……ちょっと解らなくもないな)


戦闘職の本能的な部分をアレナも持っているが、どちらかといえば安全に依頼を達成させたいタイプ。


しかしルウナとゲイルは強敵と遭遇すれば、激しくぶつかり合う激戦を体験したいと常に思っている。

その激戦を乗り越えた時の何とも言えない達成感……それがたまらないのだ。


二人のその感覚をゼルートは知っている。

少し前に体験したばかりの……悪獣との対決。


(二人はあの時、俺が体験したような戦闘が出来ると期待していたんだろうなぁ……まっ、今回の相手はそれなりに強かったけど、悪獣ほどの強さはなかったからな)


今回の討伐相手は推定Aランクの魔物。

その体の大きさを考えると、討伐にはそれなりの戦力と数が必要になる。


体の大きさはそれだけで武器になる。

一段階進化を果たしたエボルサーペントは、通常攻撃ですら慎重に対処しなければならない。


(でも、今回は俺たちの中から数人だけとか一人だけ、とかではなく……全員で戦った)


そう、今回のボス戦はゼルートたち全員で戦ったのだ。


ルウナの炎狼と爪撃。

ゲイルの打撃と雷斬。


アレナの魔法剣と妨害魔法。

ラルの雷のブレスと見た目に似合わない重撃。


ゼルートの徹底した防御と補助魔法。

ラームの多彩な攻撃魔法による支援。


この六つが重なり、六人は誰一人怪我を負うことなく有利に戦いを進めた。


第三者が見れば、寧ろこの六つの戦力を相手に十分も戦い続けたエボルサーペントを褒めるかもしれない。


「後ろでサポートをするのも結構楽しかったよ!!」


「そうか、それは良かった」


「でも、次は前に出て戦いたいな!!!」


「……オーケー、次のエボルサーペント戦はラームに前に出てもらおうか」


「やったーーーっ!!!!」


スライム対エボルサーペント……傍から見れば、どう考えても勝負にならない。

自殺行為としか思えない対決だが、ただのスライムではなくゼルートと同じく種族の中で例外中の例外であるラームならば、前線で相手をしても上手く戦える。


(……ラームの手札を考えれば、一体は吸収させておいた方が良いかもな)


エボルサーペントの素材はとても貴重だ。

余すことなく全て使える。高級な物ばかりなのだが……ラームが他の魔物の姿をコピーするには、魔物の体を丸々吸収する必要がある。


「楽しめた……楽しめたさ、それは確かだ。でもな……こう、私が想像していた熱い戦いとは少し違って……心地い戦いだった。いや、それが悪くないとは解っているんだが」


「同じ気持ちですね。まぁ、仕方ありません。六人で戦ったのですから、どんな敵てもだいたいは今回の様な結果になってしまうでしょう」


ルウナは今回の戦闘について一人で葛藤しているが、ゲイルはサラッと区切りをつけた。

というよりも、ゲイルは最初から「もしかしたら、あっさりと終わってしまうかもしれませんな」と七割ほど思っていた。


そしてその七割が見事に的中してしまった。

軽度の傷を負うことは何度かあったが、直ぐにゼルートが回復魔法を飛ばしたので、大事になる前に完治している。


しかも怪我を負ってから完治するまでの速さが尋常ではない。


「もう、皆無事に倒せたという結果を喜びなさいよ……一段階進化したエボルサーペントなんて本当なら複数のパーティーが合併して討伐する魔物なんだから」


「ですがアレナさん。私たちの人数は六人と一パーティーの中では少々多い方です。それに一人が持つ戦力が異常ですし……それに今回はきっちりと一般的なパーティーを例として役割を決めました。なら、簡単に討伐出来てしまうものではありませんか?」


「それは……そうね。確かに仕方ない結果…………絶対に仕方ないの使い方を間違ってるわよね」


ラルの言う事が解らなくもないが、やはりどこか納得出来ないアレナだった。

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