少年期[620]役割分担

「それじゃ、中に入るとするか」


軽く体をほぐし終え、六人はボス部屋の中へと突入した。


そして……中には少々血を流しながらも、狂気を帯びたエボルサーペントが待っていた。


「これは……もしかして進化してる感じか?」


「嬉しそうな顔で言わないの。でも、その考えは間違ってないでしょうね」


周囲には一つ前のパーティーが装備していた武器が転がっていたり、血溜まりなどがあった。

だが、一つも冒険者らしき死体はなかった。


(ボロボロになるほど戦ったけど、結局勝てなかった。それで帰還石を使った地上に戻ったって感じか。でも、エボルサーペントもノーダメージって訳じゃなさそうだな)


急速に進化したことで実力が上がったとしても、傷や体力、魔力が完全に癒えることはない。


「ふむ、万全な状態ではないのか……しかし激闘を経験しなければ進化しない。それなら、多少傷付いていても進化していた方が歯応えがありそうだ」


「同感だな。良い感じに強化されている……ボスだから、何度も戦えるってのが良いよな」


条件として一つ前の冒険者達が討伐せず、殺されるか帰還石を使用して地上に戻る必要がある。

ただ、Bランクの魔物の中でも特に手強い。


進化してAランク級の強さを手に入れれば、更に倒すのが困難になる。


だが……こうして進化してワンステージ上の力を手に入れたエボルサーペントだが、目の前の六人を見て直ぐには襲い掛からなかった。


闘志は高まっている。

血は沸騰している。このまま連戦しても全く問題無い。


寧ろ、熱が冷めないうちに戦いたいとすら思っていた。


しかしバカみたいに突っ込みはしなかった。


(……どうやら、結構冷静みたいだな)


Aランク並みの強さを手に入れたエボルサーペントは間違いなく強敵だ。


だが、この六人が揃えば強敵と呼ぶほど苦戦はしない。

丁度良い実戦相手、そんなところだ。


そこまで正確に実力を測れてはいないが、考え無しに突っ込んでは先程みたいに勝てないと理解していた。


「なぁ、どうやって戦う?」


「どうって……全員で戦うんじゃないの?」


「全員がマジで戦ったら瞬で終わるだろ。早く終わるのが悪いとは思わないけど……それなりに楽しめた方が良いだろ」


進化したエボルサーペントを目の前にしてこの発言。


やはり心底ある意味アホだと思ってしまう。


(いくら怪我を負ってるとは言っても、目の前の敵は進化したエボルサーペントだって言うのに……こんな状況に慣れてる自分が恐ろしいわ)


既にパーティーメンバーの実力がどれほどなのか、それは十分に理解している。


「それなら、いつもみたいに数人だけで相手をするの?」


「う~~~ん、そうだなぁ……どうせなら、パーティーらしく役割分担をして戦ってみるか」


「それなら私は必然的に前衛ですな」


ゲイルは一歩前に出ていつでも戦えるように構える。


「なら、私も前衛だ。存分に殴らせて貰おう」


「…………うん、そうだな。二人は必然的に前衛だな」


遠距離攻撃が出来ないことはない。

だが、二人は圧倒的に接近戦に特化している。


「それなら……私は中衛ですね」


「私もね。どちらかといえば前衛だけど、私まで前衛に入ったら前衛過多になるし」


二人共ステータスを考えれば前衛の方が適しているが、中衛もこなせるほどの器用さを持つ。


「それじゃ、俺たち二人は後衛だな」


「後ろからバンバン撃ったら良いんだよね!!!」


「まぁ……バンバン撃つのも大事だけど、半分ぐらいはサポートだからな。相手の攻撃からルウナたちを守ったり、攻撃を妨害したりってのがメインだ」


「なるほどぉ~~、そういうのも出来ておいた方が良いってことだね」


「そんな感じだ」


普段からあまり仲間のサポートなどを行うことはない。

なぜなら……全員が敵の攻撃を躱せるほどの速さ、読みを持っているから。


ただ、今回対峙する雷の大蛇は容易に倒せる相手ではない。


「ゼルート、なるべく素材は傷付けない方が良いんだろ」


「あぁ、なるべくそういうスタイルで頼む」


依頼の素材としても必要だが、ゼルート個人としても欲しい素材だ。


(進化してるかしてないかで素材の質も変わるみたいだし……次に戦う時も進化してる個体が良いな)


不謹慎なことを考えてるというのは解っている。

だが、それとこれとは別感情なので仕方ないと割り切っている。


「さぁ……狩らせてもらうぞ」


ゼルートたちの準備が完全に整い、エボルサーペントも魔物としての本能が理性を破壊し……タイミング良く両者は跳び出した。

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