少年期[617]クラン内でのいざこざ

戦闘に戦闘を重ね続け、ようやくゼルート達は五十階層のボス部屋前に辿り着いた。


「……多いな」


無事に辿り着いたのは良かったのだが、ボス部屋の前には七組みものパーティーが先に並んでいた。


「そうね、確かに多いわ。でも、ここまで辿り着いた冒険者だけあって、皆かなりの強さを持ってるわ」


「……それは解かる。解るが……少々数が多くないか?」


「だよな」


ルウナとゼルートは疑問に思った。

ボス部屋の前に何組ものパーティーが並んでいるのは理解出来る。


だが……その一つのパーティーの人数が、明らかに多い。


「五十階層のボスはエボルサーペントでしょ。Bランクの魔物がボスなのだから、人数を揃えるのは当然よ。二人が思ってるよりBランクの魔物は冒険者にとって脅威なんだから」


ゼルートやルウナならば例えBランクの魔物が相手であっても、一対一で勝負しようと思い、闘争心が燃え上がる。


しかし普通はそうでは無い。

そもそも一人で挑もうなどとは思わず、複数で挑み、なるべく死者が出ないように対策を練って挑む。


「それに……エボルサーペントは数回の戦闘でAランクに相当する程の実力を身に着けるかもしれない。それを考えると自分達の為にも、同業者の為にも絶対に討伐しなければならないという気持ちがある筈よ」


「なるほどねぇ~~。まぁ、俺としてはエボルサーペントの実力が上がってても問題無いけどな」


「ゼルートに同意だ。そちらの方が燃えて来るというものだ」


「二人共、あんまり不謹慎な発言は止めなさい」


「うっ……すまんすまん」


エボルサーペントは敵との戦闘を経験し、急激に成長する個体。

だが、必ずしも敵を倒す必要はない。


自身の糧となる経験値を得られれば、成長するのに問題はなく……冒険者が最後の最後で、もう自分達に戦う体力も魔力もないと判断して帰還石を使用して地上に戻ってもエボルサーペントは成長する。


「でも、本当に人数が多いな……もしかしてパーティー同士が組んでるだけじゃなくて、クランの中で編成されたパーティーも参加してそうだな」


一般的なパーティー同士が組むには色々と配分問題が付いて回るが、クランに所属している冒険者ならばそういった問題はあまり起らない。


「この辺りの階層になれば、クランに所属している冒険者の方が探索は有利に進められるでしょうね」


「チームプレイってやつか……確かに同じクランのメンバーなら、危機的状況に遭遇しても同じメンバーが見つけてくれればその状況から脱出出来るかもしれないな」


「……それはちょっと分からないわね」


「なんでだよ。同じクランに所属してるなら、基本的に助け合うべきだろ」


ゼルートの言葉は間違ってはいない。


だが……それは少々綺麗事と捉えられる。

この階層まで辿り着く冒険者達は全員が並ではない。


それがキーとなり、普通と思える判断を取らなくなる。


「確かにそれが普通よね……でも、この辺りの階層まで降りられるという事は、それだけである程度の強さを持ってるでしょう。となれば、クランでもそれなりの地位に就いてる筈よ」


「それなりの地位……えっ、もしかして足の引っ張り合いをしたいのか?」


「簡単に言うとそういう事ね。大きなクランになればなるほど、クラン内に派閥というのが生まれる。その派閥同士で足の引っ張り合いというのは派手に行われていないと思うけど……ダンジョンでは外に伝える手段が殆ど無い」


「えぇ~~~~…………もしかして馬鹿ばっかりなのか? それとも、そんなしょうもない地位に就いたぐらいで薄っぺらくてダサいプライドが生まれてしまうもんなんか?」


つい……本当につい、思ってしまった事をそのまま言葉にしてしまった。


その声は周りにいた冒険者達に伝わり、中には大声で笑っている冒険者がいれば、笑いを堪えようとしている者もいる。

そしてゼルートの言葉に当てはまっていて、自覚がある冒険者は怒りを抑えようとプルプル震えていた。


「……ゼルート、あんた本当に容赦無いわね」


「あっ……いや、だってさ……それって色々と人として終わりそうじゃん。正当な理由があるなまだしもなぁ~」


あまり権力などには興味が薄いゼルートの純粋な言葉に、胸を抉られた冒険者が何名かいたが、幸いにも乱闘になることはなかった。

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