少年期[614]敗れた剛斬

「やっぱり個としての戦力は結構高いな……でも、ギリAには届かないって感じか」


リビングデットジェネラルとの一騎打ちが始まってから五分以上が経過したが、お互いにまだダメージは殆ど食らっていない。


表面上は互角の戦いに見えるだろう。


だが、中身はまるで違う。

お互いに強化スキルを使用しているが、ゼルートは身体強化のスキルのみ。


ジェネラルは身体強化に加えて剛腕、脚力強化、鉄壁と四つの強化スキルを同時併用している。

そして長剣には呪力が纏われているので、身体強化のスキルと刃に光の魔力を纏っているゼルートよりも魔力の消費速度が速い。


それに加え、魔力量の差が戦況に大きく関係している。


ゼルートの魔力量は人外の域に達している。

対してジェネラルは一般的な魔力量と比べれば多い部類に入るが、ゼルートと比べれば他と大して変わらない。


攻防の最中に呪力の斬撃を飛ばしたりもしているので、いつ魔力が底を尽いてもおかしくない状況。


(こういう時、俺のアホみたいに多い魔力量って有利だよな。身体強化のスキルを常時使っていても残量を気にする必要なし。それにスピード寄りだから魔力が尽きそうになったら距離を取って、魔力回復のポーションを飲める)


ゼルートを相手にして、魔力が尽きるのを待つという作戦は論外中の論外。


現時点での速さも常人が付いて来れる速度ではないが、疾風迅雷を使えば大半を置き去りにして戦場を駆け抜けられる。


圧倒的な速さで動いている最中に魔力を回復。

敵は勿論それを阻止したいだろうが、攻撃を当てるのはほぼ不可能。


(視た感じそろそろジェネラルの魔力が尽きそうだし……結構楽しめたから、もう終わりだな)


ダンジョン探索を楽しみたいという気持ちがある。

だが、今回はまず雷系の魔物の素材。そして聖魔石のゲットが最優先。


あまり自分が楽しむ為に時間は使えない。


(一刀両断で倒すのが良さそうか、な……将軍として、最後まで全力を尽くすってところか)


ありったけの呪力を長剣に纏い、大地をを斬り裂き、腐らせる破斬を繰り出す。


「ライトブレイク、ってところかな」


斬るよりも潰すという性質に変えた光の剛斬。

この斬撃で相殺できるだろうと思っていた……そう思っていたのだが、なんとギリギリのところで突き破られてしまう。


「ぶっ!!! マジか、よッ!!!!!」


予想外の威力に驚きながらも直ぐに右拳に聖なる魔力を纏う。


そして……全力で呪力の腐斬を殴り飛ばした。


「ったく、最後の最後に超驚かされたよ。じゃあな」


この一撃で斬撃を潰せる。

そう確信していたゼルートは腐斬を殴り飛ばした後、即座にその場から動いてジェネラルの背後を取った。


声が聞こえた瞬間に振り向こうとしたが、最後の斬撃で魔力を全て使い切ってしまい、速度が普段通りに戻っていた。


その状態でゼルートの光斬を躱すことも防ぐことも出来ず、真横に体をスパッと斬られた。


体を完全に真っ二つに切断されたジェネラルに復活する術はなく、鎧の中から魔石がこぼれ落ち、完全に行動が停止した。


「ふぅーーーー……ちょっと焦ったな。いや、本当に」


ライトブレイクでありったけの呪力が込められた腐斬を相殺出来ると思っていた。

押し切れずとも、相殺は出来る。


だが、予想に反して腐斬がゼルートの光斬を打ち破った。


(単純に俺のライトブレイクが弱かったのか……それとも放たれた呪力の質が変わっていた?)


腐斬が通り過ぎた地面はドロドロと溶けていた。

マグマで溶かされたような断面ではなく、腐って溶けた様な切断面。


(呪力、か……あまり油断しない方が良さそうだな)


「ゼルート、右手は問題無いの?」


「あぁ、聖属性の魔力を纏ってたからな。ライトブレイクが突破された時はちょっと焦ったけど」


「手を抜き過ぎたんじゃないの」


「……属性の相性として悪くはなかったから、これぐらいで突破出来るだろ、って気持ちは確かにあった」


光と呪力。


どちらもお互いに弱点となる属性。

使用された魔力の量により、優劣が決まる場合が多い。


そして魔力量に余裕があるゼルートは本気で攻撃しなかったとはいえ、残量を気にせずにライトブレイクを放った。


しかし、結果は押されてしまい、聖属性の魔力を纏ったパンチで撃破。


(呪力の性質が変わったのか、単純に決死の攻撃がが普段よりも強力な一撃になったのか……リビングデット系の魔物は顔がないから感情の変化とかが解らないんだよな)


相殺出来ると思った一撃がまさかの突破されるという事態が起こったが、ゼルートとしては非常に満足出来る戦いであった。

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