少年期[601]で、だからなんだよ

「どうしたんだよアレナ、そんな険しい顔をしてさ」


「あなたに迷惑を掛けたからこんな顔になってるのよ」


まだ言葉に出ていない、目の前の現状としても現れていない。


だが……この先どういった状況になるかアレナは完全に読めていた。


「流石は元Aランク冒険者だな。お前ら、こっちにこい」


オーラスがそう言うと、二人の男がゼルート達が囲むテーブルへとやって来た。


「ゼルート君、こっちの二人が先日おたくの仲間に世話になったんよ」


「……世話?」


「説明したでしょ。ナンパしてきた男を殴ったって」


「あぁ~~~、そんな話もあったな」


アレナが先日話した内容を思い出したゼルートは特に表情を変えず、店員におかわりを頼んで食事を続ける。


(いや、マジでここの料理は美味いな。使ってる素材が上質ってのもあるんだろうけど、料理人の腕があってこその味だろうな……んで、なんでこの状況が俺に迷惑を掛けてるって事になるんだ?)


まだ状況が把握出来ていないゼルートの頭の上にはてなマークが浮かんでいた。


「そんで、それが俺になんの関係がある?」


「君はパーティーのリーダーやろ。それなら、パーティーメンバーが起こした問題はリーダーが責任を負って処理しなければならないやろ」


「はぁ……かもしれないな。で、だからなんなんだよ」


この言葉だけはまだゼルートは物事を深く理解していなかった。

オーラスはゼルートの反応を見てリーダーとしての資質は低いのかもしれないと認識した。


(実力はぶっ飛んでるかもしれないが、こういった問題の対処にはまだまだ不慣れみたいやな)


今度はもう少し今回の件について深く説明する。


「この二人はとある貴族の家から預かってるんだよ。銀獅子の皇で鍛えてやって欲しいとな。そんな二人が殴られたとあっちゃ……任されている俺が問題を解決しない訳にはいかんやろ」


自分でもそこそこ無茶苦茶言ってるなと解ってはいるが、しっかりと二人の実家の方から援助を受けているので、やらなければいけない事は、キッチリとクランマスターとして遂行する。


「…………あぁ、なるほどね。大体解ってきた。それで、何をお望みだ?」


「こういった時は金で解決するのが妥当なんやけどなぁ……他にも方法はあるけど、どうする?」


「どうしようか……ちなみに、金だと幾らぐらいなんだ?」


「せやなぁ~~~、大体黒曜金貨四枚ってところか」


黒曜金貨四枚。

この言葉を聞いた周りの客達はその額の高さに腰が抜けそうになる。


そしてパーティーメンバーであるルウナはその額の高さに一瞬思考を停止させてしまう。


(……こいつはアホか? なんでゼルートがあんなボンクラ二人の為に黒曜金貨四枚も渡さなければならない……あんな奴ら、銅貨二枚でも渡せば十分だろ)


ルウナの中でアレナをナンパして逆にボコられた二人の評価は超低かった。


それに対し、アレナの表情は冷静だった。


(これはたんに吹っ掛けてきただけ。最終的に金額は下がっていく、でも……正直それでも金額が大き過ぎる)


ゼルートの懐にはまだまだ大金があることは知っている。

しかし自分が起こした結果でゼルートに迷惑を掛けてしまったという事実が、自身を責める要因となっていた。


そして後ろで食べ続けている三人は静かに殺気を漏らし、念話のスキルを使って会話をしていた。


『ねぇ、あのチャラチャラした人と後ろでニヤニヤしている二人……ウザいね。本気で潰す?』


『熱くなり過ぎですよ、ラーム。ただ……ウザいと感じるのは同感ですね。私達の主にあのような不遜な態度を取り、金銭を奪おうとするとは……何か苦しめる良い方法はないでしょうか』


ここでラルは自分が呪い系のスキルを習得していないことを後悔していた。

殺すのは難しくないが、それでは後々ゼルートに迷惑を掛けてしまう可能性がある。


それならば呪いを使用して三人に苦しみを与えた方がラル達が行ったとバレる可能性が低い。


『……二人共、安心すると良い。ゼルート様の様子を見ろ、全く雰囲気が乱れていない』


『すでにこの状況を打開する方法を考え付いている、ということでしょうか?』


『俺はそうだと思っている。今一度思い出せ、俺達の主はとんでもなく規格外な人だ……そんな方が、この状況を打破出来ない訳がないだろう』


ゲイルの言葉を聞いたラームとラルは確かにそうだと思い、話し合いの結末を見守ることにした。

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