少年期[602]圧倒的な才と修練による技

ゼルートはアイテムバッグの中からサラッと黒曜金貨四枚を取り出した。


「俺がいくら強くても金は大して持ってない……そう思ってるのかもしれねぇけど、結構持ってるんだよな」


「ッ……はっはっは!!! 一パーティーがそれだけの金額を持ってるなら確かに大したもんだ!!」


そう言ってゼルートの財力を褒めるオーラスだが……内心ではまだまだだなと思っていた。


(確かに黒曜金貨を四枚も持ってるのはスゲぇ……いや、マジでスゲぇよ)


オーラスの後ろに立っているナンパに失敗した馬鹿坊ちゃん達も予想外の展開にそれなりのイケメンフェイスが崩れていた。


(でもなぁ……わざわざ出す必要なんかなかったんだよ。黒曜金貨四枚ってのは単純に吹っ掛けのつもりだった。俺もそれだけ出せるとは思っていなかったからな。ただ、あの元Aランクの姉ちゃんは何も教えてなかったみたいだな)


こういった金が絡む交渉は最初に請求する側が吹っ掛けるのだ。

そして請求される側が減額理由を提示し、適性額まで落としていく。


オーラスも今回の交渉では黒曜金貨を二枚……上手く進めばもっと奪えるかと考えていた。


しかし、愚かにもゼルートは懐から黒曜金貨を四枚出してしまった。

これで請求額分を払えないとは言えない。


だが……ゼルートは黒曜金貨四枚をアイテムバッグから取り出しただけで、それを渡すとは言っていない。


「はッ!! おい……なにニヤニヤしてるんだよ。まさかこれを馬鹿正直に俺が渡すと思ってんのか?」


「ほぅ……それじゃどうするつもりだ? 肉体労働でもして払うつもりか」


ほんの少し……本当に少しの色欲がオーラスの体か漏れた。


そういった交渉をするつもりはない。欲しいの金だ。

だが、自分で口に出した言葉にオーラスの雄の部分が反応していた。


そしてそれはオーラスだけではなく、後ろに立っているアホクソ坊ちゃん二人も同じ。


アルゼルガだけが小さくため息を付いていた。


本人にとっては本心からの言葉ではなく、冗談だった……しかしその考えがゼルートに伝わるかどうかは別だ。


「こ」


煉獄のドラゴン


「ろ」


静寂の水竜


「す」


暴風のグリフォン


「ぞ」


大地のゴリラ


「く」


轟雷の虎


「そ」


聖光のユニコーン


「や」


漆黒の六碗の鬼。


「ろ」


氷塊の怪鳥


「う」


マグマの三頭狼


「ども」


鋼鉄の大蛇


ゼルートの言葉に合わせてそれらの自由に動ける属性魔力の生物が現れた。


「…………は、はぁああ!!!!????」


この光景に幾つもの修羅場を乗り越えてきたオーラスも素で驚いてしまった。


アルゼルガも驚きのあまり、口を開けて固まってしまう。

後ろで立っていたクソカス坊ちゃん達は失禁寸前の状態だった。


そして周囲の客達は……そそくさと会計を済ませにVIPエリアから出て行った。


「あのなぁ……勘違いしてんじゃねぇぞ。そこで尻もち付いてるアホ共がどこの貴族の子息だろうが関係ねぇんだよ……そもそも先に手を出してきたのはそっち。これ以上何かしてくるってんなら……殺すぞ」


その殺意は目の前の四人だけではなく、店中に殺意が広まってしまった。

目の前でモロに受けているオーラスは無意識のうちに立ち上がっていた。


アルゼルガもこのまま戦闘が始まるかもしれないと思い、武器を抜いて構える。

尻もちを付いているアホ二人は完全に失禁状態となっていた。


「おい、あんまり調子に乗んなや……クランの力を嘗めとるんか。お前ら、この街のダンジョンに用があるんやろ」


「はっはっは!! おいおい、いきなりダンジョン内での襲撃予告かよ……ガキの頃に既に貴族をボコってる俺がその程度でビビる訳無いだろ。てか、やれるもんならやってみやがれ。全力で潰して地獄をみせてやるからよ!!!!」


ゼルートの体から殺気だけではなく凶気までもが漏れ始めた。

その瞬間、アレナはそっとゼルートの方に手を置いた。


「ゼルート、私は大丈夫よ。別に傷付いてないから。だからその殺気を抑えて、ね」


「……あぁ、そういえばそうだな。てめぇらだけに向けるのを忘れてたわ」


殺気と凶気を撒き散らすのは止めた。

しかしそれだけ人を殺しかねない脅威が銀獅子の皇のメンバーだけに向けられることになった。

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