少年期[600]積み重なっていく皿

「金があれば特に問題ない、か。その考えには一理あるな。けど、あんまり同じルーキーの前で言ってやるなよ」


「それは解ってる。もしかしたらポロっと口から零れるかもしれないけどな」


「縦の繋がりも重要やけど、横の繋がりも重要やぞ」


「だろうな。でも、そんなセリフ一つで切れる繋がりなんて必要か?」


真剣な眼で……嘘が、腹黒さが全く見えない目でオーラスに尋ねる。


ルーキーがする目ではない。目の前の子供は子供ではない。

本能がそう理解した。


(こいつ……威勢を張ってる訳じゃない。本気でそう思ってる……普通ならイカれてると感じるやろうな。俺も半分ぐらいはそう思ってる。ただ……こいつにはそんな脆い繋がりなんて無くても生きていけるって確信を持ってるんやろうな……つぐつぐバケモンやな)


実力だけではなく、精神力も桁外れ。

目の前の少年にはどう考えてもルーキーなんて優しい言葉は似合わない。


「大層な自信やな。もしかして人付き合いは苦手か?」


「そういう訳じゃない。ただ、あまり相手の機嫌を窺う様な話し方はしないかもな」


「そうか……ほんま自分の実力に、全てに自信があるんやな」


「ガキの頃から多くの努力を重ねてきたからな。それが自信に現れてるんだろ」


オーラスのどんな言葉にはゼルートは表情を崩さずに応える。

そんなゼルートの対応にオーラスは少々つまらなく感じていた。


そんな反応を薄っすらと感じたアレナは苦笑いを浮かべた。


(ゼルートの精神年齢は明らかに子供のそれじゃない。それと本人が持っている実力によって得られる自身も相まって、多少の嫌味じゃ怒りやイラつきが表に出ることはない……というか、まだ店に呼んだ要件を話さないのね)


ゼルートとオーラスの会話を聞いていても、それはそれで面白いがやはり店に呼んだ用が気になって仕方ない。


ただ、大事な匂いがする呼び出しに対してルウナは料理に夢中だった。


(うむ、流石大手のクランが会食に使う店だけあって美味い!!! 一皿一皿の量がそこまで多くないから無限に食べられそうだな)


ルウナ一人だけ明らかに食べている量が異常だ。

周りの客達もオーラスとゼルートの会話ではなく、テーブルに重ねられていく皿の量に視線が向いている者もいた。


(それにしても中々の実力だな。チャラそうな外見からは考えられない力を有している……今の私では少々厳しいかもしれないな)


己の実力に自信がなくはないが、ゼルートと話しているクランマスターに一対一の勝負では勝算が低いと感じていた。


だが、仮に乱闘になったとしても自分達が負けるとは微塵も思っていない。


一方でオーラスの後方で待機しているアルゼルガはゼルート達の後ろで食事をしている人化したゲイル達の食事の量を見て、思わず固まってしまう。


(……ルウナというおんなの胃袋もおかしいが、あの三体の胃袋は底無しか???? あれだけの量……流石にクランの懐に少々痛いダメージになるのではないか?)


ゲイル達は延々と食事を続け、綺麗な所作で料理を食べ続けている。

その皿の量は当たり前だが、ルウナよりも圧倒的に多い。


その光景に気が付いた客達は目が飛び出す程驚いていた。

三人の体型は特に大食いといったものではない。


見た目からしてもテーブルの上に積まれている皿の量ほど食べるとは思えない。

だが、現実として三人に食事のスペースは全く落ちず、食べて食べて食べ続けている。


「ふぅーーー……美味かっ、た!!??」


自分の食事を終えたオーラスはゼルート達の奥で食べ続けている三人の皿の量を見て、周囲の客たと同様の表情を浮かべる。


しかし直ぐにポーカーフェイスへと戻し、ゼルート達を連れてきた本題を話し始める。


「それで、そろそろ本題を話させてもらうが……そっちの姉ちゃんはこの街に来てからナンパされたことはあるか?」


「あるわね。でも、それがここに来た理由と……ちっ、そういう事だったのね」


オーラスがこれから何を話そうとしているのか気が付いたアレナは無意識に舌打ちをした。

握る拳に力を入れるが、ここからの流れを変えることは出来ない。

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