少年期[599]素が出てしまった
「ここだ」
「……へぇ~、それなりのところを用意してるんだ」
ゼルート達がやって来た店は街でも五本の指に入る人気レストラン。
まず一般人の給料では料理を頼むことすら躊躇う。
それほどに一品一品の値段が高い。
そして最上階のVIP空間に案内され、そこには一人の男がゼルート達を待っていた。
「おぉ、来てくれたみたいだな」
(な、なんかちょっとチャラそうな奴だな)
銀獅子の皇のクランマスターであろう男は、ゼルートが考えていたよりも見た目がチャラい男だった。
「もしかしたら来てくれへんかと思っとったわ」
「そうか。ただ、こっちは丁度昼飯を食べようと思っていたんだ。そこに美味い飯を奢ってくれるんならやって来るだろ」
「……はっはっは!!! 噂通り面白い男だな。まぁ、座ってくれ。直ぐに料理がやって来る」
周囲の客の大半が貴族やその関係者だったり、権力者が多い。
中には銀獅子の皇より規模が小さいが、ある程度名が売れたクランに所属している実力者もいた。
そんな中で銀獅子の皇のクランマスターはこの街では顔が知れている。
なので街では有名どころのクランマスターに誘われてやって来た人物は誰なのか、各々が考え出した。
「さて……とりあえず自己紹介するか。俺は銀獅子の皇のクランマスター、オーラスだ。よろしくな」
「ゼルートだ、よろしく」
オーラスが読んだ相手の名前を知った周囲の客達は思わずゼルートを二度見してしまう。
冒険者だけではなく、貴族の間でも名の知れている超新星だと知った客達はもしかしたらこの場で乱闘が起きるのではと思い、心臓をバクバクさせていた。
ゼルートの性格が凶暴ではないが、売られた喧嘩は買う主義だというのはある程度広まっている。
そして両者の雰囲気が一目で有効といった感じには見えない。
なのでこの場で一つの切っ掛けにより、乱闘が起こってしまうのではと考える客は多かった。
しかし折角高い金を払って料理を頼んでいるので、直ぐにはこの場を去ろうとはしない。
そして野次馬根性がある者は両者の対談の結末を知りたいと思い、予定より多く料理を頼んで長く居座ろうとする者もいる。
「この街には何をしに来たんだ?」
「……ちょっと個人的に依頼を受けてな」
「ほぉ~~、個人的な依頼か。それは気になるな」
そんな他愛もない話をしながらオーラスは少しずつゼルートの心の扉を開けようとする。
「てか、お前さんササッと上に行かねぇのか? 今までの実績とか考えればサクッと上に行けるだろ」
「俺はあんまりランクには興味無いんだよ」
「……マジかいな」
この回答にはポーカーフェイスを崩さないようにしていたオーラスもミスってしまい、素が出てしまった。
例え多くの実績を残しても、貴族に成り上がる願望を持っている様には思えない。
だが、冒険者のランクにまで興味が無いのは全くもって予想外の内容だった。
(冒険者になりたてのルーキーなんて一番ランクを気にする筈やろ……こいつ、いろんな意味でぶっ飛んでんな)
まさかの事実に驚きながらもオーラスは平常心を取り戻す。
「そのセリフ、お前と同じルーキーが聞けば殆どが起こりだすだろうな。嫉妬のあまり血涙まで流しそうだぜ」
その言葉に冒険者人生二度目のアレナはウンウンと心の中で頷いた。
今はゼルートの仲間になって少々毒されてきているので、あまりルーキーのまでは言わない方が良いと小言を言うぐらいで収まる。
しかし過去のまだ冒険者になりたての頃ならば「調子に乗ってんじゃねぇ!!!」と叫びながら斬り掛かっていたかもしれない。
「かもしれないな。でも俺は十分に強いから金は稼げる。金があれば大抵のことには困らずに冒険出来るだろ」
「なるほどな、確かに金があればランクなんて関係無いかもな」
ランクによって受けられる依頼の制限はあるが、ギルドからすれば超巨大戦力を持つゼルート達に厄介な依頼を受けて欲しいと頭を下げるまである。
そして冒険に出て倒した魔物の素材は全て移動が可能であり、それらをギルドで換金すれば同じDランクでも一回の冒険で得られる換金額に大き過ぎる差が生まれる。
(ギルドでダンジョンから潜る度に大量の素材を出してるらしいし……マジで金があれば問題無いって思っとるんやろうな)
その考えはあながち間違ってはいないので、オーラスも否定しようとは思わない。
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