少年期[583]楽しい肉弾戦

「はっはっは! なんじゃこりゃ」


「なにって……どうみてもピンチな状況でしょ」


三十五層まで降りたゼルート達は現在、オーガの群れに囲まれていた。


(モンスターパーティーか? でも、オーガ類だけで囲まれるってのは珍しいよな)


オーガ、レッドオーガ、ブルーオーガ、グリーンオーガ、イエローオーガ。

はどの色がそれぞれ違うオーガが合計で七十弱ほど現れ、ゼルート達を襲おうとしている。


「良いじゃないか、良い状況だ。昂ってきたぞ!! ゼルート、自由に戦っても良いよな!?」


「あぁ、勿論だ。お前ら……オーガ狩りだ!!! ぶっ潰すぞッ!!!」


ゼルートの掛け声とともに全員飛び出し、各自で狩りを始めた。


オーガのランクはC。腕力と耐久力に魔物だ。

それに加えて肌の色が違うオーガは火や水、風に雷を体の一部。もしくは全身に纏うことが出来るBランクに近いCランクの魔物なのだ。


冒険者ならば接近戦はなるべく避け、遠距離攻撃をぶち込んで速攻で勝負を終わらせる。

それがオーソドックスな戦い方だが、アレナとラーム以外の四人は素手でオーガたちに挑んでいく。


「良いぞ良いぞ良いぞッ!!!! そうだ、もっと殺しに来い!!!!!」


ドМなのか? そう思いたくなる発言を飛ばすゼルートだが、この現状を楽しんでいるのは間違いない。

体には風の魔力を纏い、オーガやレッドオーガの攻撃に対して撃ち返し、体を抉っていく。


拳には拳で返して相手に指をボキボキに折ってしまい、蹴りが来れば蹴りで返して骨をバキッと折ってしまう。

なので戦いの中では肉体と肉体がぶつかる衝撃音以外にも、骨がバキボキと折れる音が何度も聞こえてくる。


「ふっふっふ……自分を高めるには丁度良い状況だ、なッ!!!!」


ルウナもゼルートと同じく肉弾戦が得意だが、どちらかと言えば急所を狙って仕留めることが得意だった。

なのでこの際にガチに肉弾戦を鍛えようとゼルート同じく拳には拳を、肘には肘をといった感じで攻撃をぶつけていく。


レベルはルウナの方が高く、身体能力もルウナの方が勝っているのだが普通に考えて二人共おバカな戦法を行っている。


スピード寄りの二人の身体能力を考えれば、相手の攻撃が自分に届く前に腹を貫いたり顔面を蹴り飛ばしたりと、絶命させる手段が多くある。


なのにその選択をせず、魔力を己の体に纏って肉弾戦を続ける。

しかもい一対一の戦いではなく、一対多数の戦いなのだ。


わざわざ相手の攻撃に合わせて攻撃を返す……そんな事をしていれば、当然不利な状況に陥りやすいのだが普通だ。


しかし二人は自慢のスピードを生かし、タイミング良く攻撃を当てていく。

そしてどうしてもタイミングが合わないという攻撃だけ避け、戦いを進めていく。


「……はぁ~~、本当に二人共戦闘バカなんだから」


ため息を吐きながらアレナはゼルートやルウナの様に半分楽しみながら戦うことはせず、ある程度本気の状態で戦う。

まずは足首の切断、もしくは根元から切断して動けないようにする。


そして心臓や脳天、首を斬って突いていく。

もちろんオーガ達もそう簡単にやられる訳が無く、偶にアレナの斬撃を躱す個体いる。

スパッと切ることは出来ず、ギリギリ反応されて完全に切断とはいかない場面もあった。


だが、アレナの斬撃はレッドオーガやブルーオーガにダメージを与えていく。

一撃で仕留めようとはせず、まずは脚を潰してから殺す。


その狙った行動を止められるだけのスピードがオーガ達には無く、急所を貫かれて息絶える。


「ふぅーーー、やっぱりオーガはそれなりに厄介ね」


ルウナと同じくアレナは周りにいるオーガよりもレベルは断然高い。

必然的に身体能力も高くなる。だが、やはり二人の様に楽しんで戦う事は出来ない。


緊張感が切れない中、冷静に周囲の状況を把握して動き、攻撃を加えていく。


(相変わらずこういった状況で二人みたいに楽しむことは出来ないけど、少しは強くなったって思っても良さそうね)


ソウルコネクトを使用したリビングデットナイトとフレイムリザードのコンビに勝利し、今もオーガやレッドオーガ達との戦いを優勢に進めている。

アレナはいつも自分の実力を過小評価しているが、その実力は確実に増している。

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