少年期[582]そこまで上手く戦えない
英気を養った翌日、ゼルート達は起きて朝食を食べてから直ぐにダンジョン探索へと向かった。
そして三十階層に転移し、再び速足で探索を進めていく。
「やっぱりここまで降りてくると大体は多少強い程度の実力があるよな」
「そうね。でも、六人もいれば苦戦することはまず無いでしょう」
モンスターパーティーを他のパーティーと一緒にとはいえ、大した時間も欠けずに全滅させたゼルート達。
たとえ三十階層でモンスターパーティーが起こったとしても、余裕で全滅できるのは間違いない。
「ゼルート、このまま五十階層辺りまで降りるのか?」
「そうだなぁ……目的の素材は六十階層のボスが落とすから六十階層まで降りてとりあえず一回倒そうかな」
「そうかそうか、それなら強そうな魔物と存分に戦えるな」
「まったく、ルウナは頭の中がそればかりね。六十階層まで降りれればそう簡単に倒せない魔物が多いのよ」
その言葉は正しく、そこまで降りれば最低ラインの強さを持つ魔物はレベルの高いDランク。
運が悪ければボスでもないのにAランクの魔物と遭遇する可能性だってある。
下層とはまさに地獄、殆どの冒険者がそう思うように、アレナも同じ感想を持っている。
確かに過去のアレナの体験を考えれば地獄だと思っていてもおかしくない。
だが、アレナはその頃と比べ確実に強くなっている。
身に着けている武器やマジックアイテムもそうだが、単純にレベルが上がって身体能力や魔力量も上がっている。
「ふっふっふ、楽しめそうな場所じゃないか。ゲイルもそう思うだろう」
「そうですね。アレナ殿には申し訳ありませんが、私はルウナ殿と同じく下層に生息する魔物達と戦うのが楽しみです」
「……」
当然の様に答えるアレナに自分の考えがパーティー内では分が悪いと思い、リーダーであるゼルートに尋ねる。
「ゼルートはどう思っているの?」
「下層に降りた時の感覚か?」
「そうよ。普通は常に恐怖を感じる場所なのよ」
「恐怖を感じる場所、ねぇ……その感覚は間違ってないんだろうな。でも、アレナ。良く考えてみろよ、俺達の戦力をさ」
魔法も武器も体術もなんでも平均以上にこなせる魔力量オバケなぜルート。
その鋭い攻撃で敵を斬り裂き、炎狼で燃やし尽くするルウナ。
ゼルート程ではないがレベルの高いオールマイティな実力を持つアレナ。
見た目は小さなドラゴンだがその姿は仮で、巨大化してそのブレスで全てを掻き消す雷竜のラル。
ただのスライムの見えるが、恐ろしい能力と多数のスキルを持つラーム。
そして最後にリザードマンの枠を超えた身体能力と魔力を用いて敵を滅ぼすゲイル。
「……まぁ、確かに協力過ぎるわね」
「だろ。それにいざとなれば錬金獣を使って戦えば大抵の群れは潰せるだろ」
錬金獣とはゼルートがまだ冒険者になるまえに造り出した自動で動く戦闘人形。
モンスターの素材や魔石、鉱石が元となって造られた戦士はそんじょそこらの相手に負ける程弱くない。
「そういえばそんな戦力もあったわね……そうね、確かに今の私達にとって下層はそこまで恐れる場所ではないかもね」
「お、アレナも楽しむ気になってきたか?」
「いいえ、それは無いわ。確かに纏まっていればどんな敵にも負けないかもしれないけど、ダンジョンのトラップで分断されるかもしれない。それを考えるとやっぱり緊張感は消えないし、戦いを楽しもうって気にはならないわね」
今のところ全員の感知力でダンジョンのトラップに引っ掛かったことは無いが、戦闘が始まればそうはいかない。
事前にここにはトラップがあると解っていても、魔物との戦闘が始まればトラップの存在なんて忘れてしまうだろう。
そうなった場合、戦闘に夢中になってトラップを発動してしまう。
もしくは魔物がトラップを発動してしまって巻き添えを食らう可能性だってある。
しかし、正確に戦況を把握している冒険者ならばそのトラップを有効活用して魔物にダメージを与えることも出来る。
だが……大抵の冒険者はそんなに上手く戦えない。
ゼルートもトラップを利用して魔物にダメージを与えようなんて発想は相手の強さにもよるが、思い浮かばずに普通に戦って倒そうとする。
「私はとりあえず聖魔石が早い段階でドロップして欲しいと願うばかりね」
「それは俺も同意だな。依頼を受けてる品だからさっさとドロップして欲しいよ」
さすがのゼルートも現在受けている指名依頼の品がなんなのかは覚えていた。
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