少年期[579]下手糞な追跡

店から出たゼルートは面倒だなと思いながらも自分を付けている馬鹿共から逃げようと歩くスピードを上げていく。

すると冒険者達もそれに付いて行くようにスピードを上げていく。


(……下手糞だな。普通に足音が聞こえるんだが。気配感知で付けているのは完全に解ってるし……気配遮断のスキルを持っていないのか? それとも街中だから自分達が潰されることはないって思ってんのか?)


二つ目の考えが正しく、四人の冒険者達は街中で自分達が潰されるなんて微塵も思っていない。

というより、自分達がゼルートに負ける訳ないと確信している。


ただ、ルーキーに教育的指導を加えることに慣れていない四人は上手くゼルートを人気の無い場所に引きずり込む術を持っていない。


結局スピードを上げていくゼルートに付いて行きはするが、結局大通りに戻ってきたので人目の多い場所で騒ぎを起こすことは出来ない状態となった。


(クソッ!!! どうにかして人気の無い場所に連れ込めばボロカスにしてやれるのに)


戦力さを考えればどう考えてもボロカスにされるのは四人の方なのだが、相手の力量が読めない馬鹿は絶対に自分達が勝てると信じ込んでしまっている。

なんとも哀れで愚かな存在だ。


四人が優秀な冒険者のか無能な冒険者なのか……それは今後送る冒険者生活にもよるが、上手くいけば優秀な冒険者の部類に入るかもしれない。

ただ、現時点でルーキーの域をようやく抜けてダンジョンでもまともに稼げるようになってきたという程度の話。


ぶっちゃけた話、一人でもダンジョン攻略が出来るであろうゼルートとは比べ物にならなない程の差がある。


(ん~~……もしかしたらダンジョンに潜った時に襲い掛かってくるか? でも、俺達が今潜っている階層だと既にあいつらが潜るには深すぎる階層な気がするな)


(こうなったらダンジョンの中でボコボコに……でも、あいつらが今どの階層に潜っているのか分からないな)


丁度ゼルートはバカ冒険者の考えを的中させていた。

そしてバカ冒険者達は三十階層より下の階層に潜る力はない。


なので……馬鹿共がゼルートに奇襲を仕掛けるタイミングは気が向いたゼルートが人気の無い場所に一人で移った時ぐらいしかない。


ただ、そうなった場合はバカ冒険者達の命日とも言える日になる……かもしれない。


そしてその日は馬鹿共に絡まれることなく無事に休日を過ごした。


「へぇ~~、ゼルートにしては珍しいじゃない」


夕食時、全員が集まった時に今日一日の内容を聞いたアレナはそこそこ驚いていた。


(ゼルートなら喜んで誘いに乗って、そんな馬鹿共を嬉々とした表情でボコボコにすると思ったけど)


ゼルートを狙おうとする者は基本的に少々可哀そうと思う、それがアレナの最終的な考えだ。

勿論人に迷惑を掛けようとしていた馬鹿に天罰が下るのは良い事。


だが、ゼルートはそうやると決めたら基本的に容赦ないのだ。

冒険者の場合は装備品や使えそうな物、有り金など全て戦利品として剥ぎ取られてしまう。


基本的に冒険者は自分が一番信頼している武器を身に着けるものだ。

本当にしょうもない品ならゼルートも奪いはしないが、そこそこ使える物であれば速攻で剥ぎ取られてしまう。


それを考えると……冒険者歴が長いアレナはやはりほんの少しだけ可哀そうだなと思える。


「なんというか……単純に気分の問題だったな。今日はのんびりと散策したい気分だったんだよ。だからなるべく人目のある場所を移動していたんだ。ルーキーに意味の無い教育的指導をするのに慣れていない奴らだったからか、堂々と絡んでくることはなかったけど」


「腰抜けだな。気に入らないという感情を持っているなら、それ相応の対価を用意して決闘を挑めば良いものを」


「……もしかしたら馬鹿なのは変わり無いけど、本能がゼルートを格上なんじゃないかって疑ってるから人気の無い場所で一対四で襲うとしたんじゃないの?」


「さぁ、どうだろうな? とりあえずまともな考えが出来る奴らなら人気の無い場所で絡んで潰そうだなんて考えないだろうな」


ルウナの言う内容には一理ある。

だが、それを実行出来る者は少ない。


頭の回る者なら上手くゼルートに決闘を申し込むだろうが、大半の冒険者はそこまで頭が回らないのだ。

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