少年期[577]その戦いを観たからこそ
「覇王戦鬼をこの目で見ることが出来るとは……今日はどうやら運が良かったようだな」
「うっ……その二つ名、もう定着してるのか?」
「なんだ、嫌なのか? 中々カッコイイ二つ名だと思うが」
「カッコ悪いとは思って無いよ。でも、俺の見た目には合ってないからな」
毎度思ってしまう。
自分に仰々しい二つ名は絶対に似合わないと。
少なくとも、今は似合わないと思っている。
(せめて二年後なら十五歳になってある程度身長も伸びて、顔つきも男らしくなってるからその時に二つ名でも付けてくれたら良いのに)
単純な名前ではあるが、大魔導士、魔拳王などの二つ名候補もある。
それらは遠目からゼルートと悪獣の戦いぶりを観ていた冒険者達が、ゼルートにはこんな二つ名が似合うだろうと酒場で話し、それが広まっていった。
「……普段の見た目からはそうなのかもしれないが、おそらくお前さんの二つ名を考えた冒険者達は坊主の戦いっぷりを観て、この二つ名が似合っていると思って広めたんだろう。どんな馬鹿でも、お前さんが戦っている姿を見れば納得するだろ」
「俺の戦う姿、か……なるほどね。それならちょっとは納得出来る」
「悪獣との戦いはどの様なものだったんだ?」
Sランクの魔物との戦い……気にならないはずがない。
そしてゼルートは隠す内容でも無いので軽く店主に説明を始める。
「……今までの戦いの中で一番命の危機を感じた。オークキングとかならまだ楽しむ余裕が残っていたんだけどな」
「それでも十分に凄いことだと思うがな」
Bランクの魔物であるオークキングとソロで戦って勝ち、尚且つその戦いを楽しむ者なのだ殆どいない。
それを聞くだけでも他の冒険者と比べてゼルートの感覚がおかしいという事が解る。
「一般的に考えればそうなんだろうな。でも、俺にとっては楽しめたよ。魔剣の類の大剣を持ってたし、頭も悪く無かった。ただ……そんなオークキングと比べて悪獣は強さとかの前に体から放たれる圧が違い過ぎた」
「そりゃBランクとSランクの魔物だからな。そういう基礎的な部分から違うのは解るが……どの程度違うんだ?」
「どの程度……オークキングを生で見て、失禁する程度済んだ冒険者が悪獣を見たら絶対に感じさせられる恐怖に気絶するほどに、かな」
「……っ、それほどまでか」
敵を目の前にして意識を失う。それは自殺行為に等しい。
本人だって望むならそんなことはしたく無い。だが、体は自身の負けを認めたら……そもそも足掻くのは無駄だと判断して意識を失ってしまうかもしれない。
「オークキングと戦う時と、悪獣と戦う時じゃ使ってる手札の量も違っていた。えっと……オークキングの肉って美味しいじゃん」
「食ったことは無いが、美味いだろうなとは思う」
通常種のオークの肉が美味いので、そのキングの肉が更に美味いというのは容易に想像出来る。
「だからオークキングと戦ってる時はあんまり傷付けないようにって気を付けていた部分があった」
「……本当に余裕だったんだな」
強敵と戦う場合、まずは殺して生き残ることを考える。
モンスターの素材など普通は気にしている余裕は無い。
パーティーで戦っているなら話は変わってくるが、ゼルートはオークキングと一対一で戦っていた。
肉をできるだけ残して勝とう、なんて思考は残さずに殺す事だけを考える相手だが……ゼルートは終始その戦いを楽しんでいた。
「見た目以上にレベルが高いからな。でも、悪獣相手にそんな余裕は無い。手札を全部使った訳じゃないけど、殆ど使ったようなもんだよ」
「なっ……ほ、本当、みたいだな」
Sランクの魔物と一対一で戦って手札を全て使わないなど、そんなことはあり得ない。
己が出せる全ての力を使って届くか届かないかの勝利だ。
一人で挑むなど……無謀で蛮勇、自殺と同じと殆どの戦闘職が思うだろう。
本物の強者であっても一人で挑もうとは思わない相手。
それがSランクだ。
そんな相手に手札を残して勝つなど……信じがたい事実。
ただ、店主はゼルートが嘘を付いていないと今までの経験から解った。
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