少年期[576]修羅場の違い

見た目は幼い、しかし弱者とは感じさせないオーラ。

そして実力を読ませない雰囲気……おおよそ子供が持つ要素ではない。


「坊主、お前さん……人族だよな」


「あぁ、人族だよ。仲間からは偶に精神年齢三十過ぎだろとか言われるけど、まだ十三歳だよ」


「十三、か……その割にはそこそこの修羅場を潜り抜けてきただろ」


才能やセンスがあるからという理由だけで放てる雰囲気ではない。

死を覚悟するような修羅場を数度は潜り抜けなければ、他人に対してここまで不気味な印象を与えられないと考える店主。


(そこそこの修羅場……修羅場って、悪獣との戦いみたいなもんだよな)


Sランクの魔物、悪獣。

そんな埒外な生物の戦いはゼルートも薄っすらと死の危機を感じた。


負けるという気持ちは無く、絶対に勝つという気持ちが心の中で溢れていたが、危機感はあった。

だが、その他の戦いには殆ど修羅場と呼べる内容では無かった。


(人によっては修羅場だろ! って言うかもしれないけど、後はゲイルとの戦いぐらいか……どちらかと言えば楽しんでる気持ちの方が大きかった気がするけど、あの戦いにも死の危機感は多少なりともあったな)


ゼルートが修羅場と思えるのはその二つの戦いのみ。

他の戦いはつまらないと感じるが、そこそこ楽しめるといった感情を持つものだった。


「まぁ、それなりに越えて来たかな」


「ランクはCかBか?」


底知れないという感覚を考慮すればもしかしたらAランクの冒険者とも考えられるが、仮にそうだとすれば大ニュースとなって店主の耳にも情報が入っている筈なので、その線は薄い。


ただ、十三歳という年齢でCランクやBランクに昇格した冒険者も殆どいない。


「いや、ランクはDだよ」


「Dか……それでも十分に凄いのだが、坊主ならもっと跳んで上に行けるだろ」


「……そうかもしれないな。でも、そもそもあんまりランクには興味無いんだよ」


いずれは上げようとは思っているが、現時点ではランクが上がらずとも金は稼げている。

戦争が始まるまでにはCランク、そこから時間を掛けてゆっくりとランクを上げようと思っている。


(父さんと母さんにはさっさとランクを上げた方が良いって言われたけど、やっかみが消えるとは思えないし……そこを考えると早く成長したいって思うよなぁ~)


人族であるゼルートは自分の時間を大切に使っていきたいと思っている。

だが、見た目に関しては成長しなければ変わらない。一時的に変えることは可能だが、永続的に変化させるのは不可能だ。


「そういうタイプか……まぁ、どちらにしろお前さんは苦労しそうだな」


「ははは、確かにそうかもしれないな」


ゼルート自身が持つ実力も嫉妬や妬みの対象だが、強い従魔や美女美少女の仲間と一緒に行動していることも嫉妬の原因となる。


(俺を妬む人となんか生涯いない気がする。まっ、人生に聖劇は必要だから遊び程度の嫉妬なら別に良いんだけどな)


現在ゼルートの後を付けている連中などは可愛いものだ。

街中だからということもあって、直ぐに襲ってくることはない。


だが、世の中には周囲に人がいようがいまいが関係無しに襲ってくる連中は、ターゲットの友好関係がある者や家族に手を出す者達がいる。


「そういえば坊主、今更だが名前はなんていうんだ」


実力者の名前を知っておきたいと思った店主はゼルートに名前を尋ねる。


「ゼルート、だ」


いつも通りフルネームは名乗らず、名前だけを伝える。


「ゼルート、か……ゼルート? 坊主、お前さん……最近噂されているあのゼルートか??」


「多分、そのゼルートで合っていると思うよ」


まさかの客に店主は驚き固まってしまう。


(……なるほどな、俺なんかじゃ実力の底が解らないわけだ)


ゼルートの噂は店主の耳にも入っていた。

ただ、噂には多くの内容があったんで、どれが正しいのかは店主も知らなかった。


(まさかランクがDで低身長ってのが合っていたとはなぁ……本当に世の中は広いな)


才気溢れる者が幼い頃から高い実力を持っていることはそこまで珍しくない。

それでも……ゼルート程飛び抜けた実力持つ子供はこの先永劫に現れることはないだろう。

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