少年期[554]一旦帰還
「さて、そろそろ俺達の番かな」
ゼルート達がボス部屋の前に辿り着いてから数十分、既に三組のパーティーはボスに挑んでいた。
そして三つ目のパーティーが中に入ってから約十分後、ゼルート達が中に入れるようになった。
「中のパーティーはどうなっただろうな」
「……もしかしたら死んだかもしれないわね。この階層で活動するには少し装備のランクが低かった。もしくは、討伐は無理だと判断して帰還石を使って地上に戻ったかのどちらかでしょうね」
「ふむ、確かに装備がこの階層に合わないというのは解るが、そいつらも冒険者だ。果敢に冒険をして乗り越えているかもしれないぞ」
ルウナの考えは間違っていない。
装備の質だけで冒険者の実力が決まりはしない。
ただ、一つの物差しというだけ。
「まっ、中に入ればどうなったのかは分るだろ」
ボス戦だからといって特に表情が変わることは無く、いつも通りの表情でゼルート達はボス部屋へと入った。
「ん~~~~……どうやら、帰還石を使って地上に帰ったのかもな」
リザードと数体のオークは健在。
しかし周囲には血の跡がいくつも残っている。
「……ゼルートの言う通りかもしれないな。魔物と人の血の匂い、どちらも残っている」
「そうか。まっ、戦うのになんも支障は無い。サクッと倒すぞ」
ゼルート、ルウナ、ゲイル、ラーム。
既にニ十層のボスと戦う面子は決まっていた。
「あらよっ、と」
「ふんっ!」
「はっ!」
「ほいっと」
ゼルートとゲイルは長剣で、ルウナは拳で。そしてラームは触手でそれぞれ応戦。
四人は特にリザードとオーク達に対して期待を持っていないので、速攻で殺しに掛かった。
そしてその速さに四体が反応することは勿論出来ず、首を刎ねられ、脳天を貫かれ、心臓を潰されて戦いは終わった。
「まっ、リザードとオークだからこんなもんだよな」
「そうだな。せめて上位種でなければ話にならない」
「下に降りれば、強い魔物が待っている。それまでの我慢でしょう」
強い相手と戦いたいと思っているメンバーからすればつまらない戦いだったが、ボス戦の魔物を相手にそう思える冒険者は多くない。
ボス戦に勝利したゼルート達はオークとリザードの死体をアイテムバッグにしまい、出現した宝箱はその場で空けずに同じくアイテムバッグにしまった。
「さて、ニ十層まで降りてきた訳だが・・・・・・一日だけ戻るか? 大体ダンジョンに潜ってから一日半ぐらい経っただろう」
圧倒的な速さでダンジョンを降りてきたゼルート達。
しかし休息を挟みながらとはいえ、多少の疲労は溜まっている。
ゼルート達が受けている依頼内容を考えれば先に先にと下の階層に降りるべきではあるが、一日半ほどでニ十階層まで降りられたのは幸先良い。
ここで一日休んだとしても、そこまで依頼に大きく影響することは無い。
「私は賛成ね。走りっぱなしだったから少しは長い休息を取っても良いと思うわ」
ダンジョンに潜れば数日は休むものだが、一日で十分と考える辺り……アレナも着々と感覚が麻痺し始めている。
「私もそれで宜しいかと。下に降りれば降りるほど気を張る環境になるでしょうし、休める時に休んでおくべきかと」
ゲイルもゼルートの提案に賛成だった。
自分達の力があれば、大抵の状況は乗り越えられる。
そう思える程の実力がゼルート達にはあるが……今回潜るダンジョンの下層はアレナ以外は体験したことが無い領域。
警戒することに越したことはない。
ゼルートの案に全員賛成したので、一度ゼルート達は地上へと戻った。
「おっ、今はもう夜か……丁度時間も良いし、晩飯でも食べようか」
「そうね、それならお店を速く決めた方が良さそうね」
ゼルートが言うように丁度良い時間帯なので、のんびりとしていたら満員で席が埋まってしまう可能性がある。
「んじゃ、美味しそうな匂いが漂ってきた店を見つけたらそこにしよう」
腹を満たすために、一番手っ取り早い方法で店を探すことにした。
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