冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

少年期［５５５］見栄が生まれる

「ここが良さそうだな」

「そうね、良い匂いが漂ってきてるわ」

良さげな店を見つけたゼルートは速攻でその店に入ろうとする。

その店は少々敷居が高く、一般的な冒険者があまり訪れることが無い店だった。

「申し訳ありませんが、一つ質問しても宜しいでしょうか？」

「あぁ、問題無いぞ」

店の中に入ろうとした瞬間、ゼルートは店の入り口に立っているスタッフの止められた。

（予想していた流れだが、アレナやゲイル達もいるのにすんなりと通れないとは……やっぱり童顔は色々と不利だな）

自身の現在の容姿に不満を持ちながらも、店員の口から出る言葉に予想が出来ているゼルートはそれに応える準備をする。

「お客様、こちらの店のメニューは少々お高いです。全員分の料金をお客様が「これだければ十分だろ」……た、大変申し訳ありませんでした。どうぞ中にお入りください、ご案内致します」

ゼルートから白金貨を見せられた店員は低姿勢になりながらゼルート達を空いている席へと案内する。

「ふっふっふ。まぁ、しょうがないわよね」

「俺も半分諦めてる。……なぁ、こういう時はゲイルが前に出てくれないか？」

「いえ、私はゼルート様の従魔なので後ろにいさせてもらいます」

どうしてもそうしなければならないという理由があるならば話は別だが、従魔であるゲイルは主人であるゼルートの前に立とうという気持ちにはなれない。

「あと五年ぐらいすれば、こういうやり取りも無くなるんじゃないか？」

「ご、五年か……長いな。どうせならルウナかアレナが前に出てくれよ」

「私達のパーティーリーダーはゼルートだからな。遠慮させてもらおう」

「そうね、私もそういった器じゃ無いし、遠慮させてもらうわ」

「……あっそ」

二人が言っている事は間違っていないが、ゼルートは二人が少し楽しんでいる様に思えた。

だが、席に案内されて美味い飯が食べられると気分が上がっているので、その気持ちは一旦しまう。

（もう……あれだ。俺がこういう店に入るにはああいう流れまでがワンセットなんだ）

店の事を考えれば仕方ない判断。多少のムカつきはあれど、その対応を否定することは出来ない。

「さて、さっさとメニューを頼むか……にしても、随分と客が多いな」

「この店はホテルも兼営してるのだから、宿に泊まっている客もご飯を食べているのでしょう。丁度夕食時でもあるし、席が満席でもおかしく無いわ」

「宿……やべ、そういえば泊まる宿はまだ探し終えていなかったな……もうここで良いか」

近くにいた従業員を呼び、今日一泊したいと伝える。

まだ数部屋空いていたこともあり、すんなり予約が取れた。

そして六人は好きなメニューを頼み、後は料理が到着するのを待つのみ。

「こういったところは冒険者が滅多に来る店じゃないのだけど……懐を気にしなくて良いのは本当に最高ね」

アレナやルウナは毎月ゼルートから小遣いを貰っているが、その小遣いでもこの店の料金は十分に払える。

そしてそんな太っ腹なゼルートの懐は……温かいどころか熱くなっている。

クランの総資金などを入れればゼルートよりも金を持っている冒険者組織はあるかもしれないが、パーティー単体で考えればゼルート達より資金が上のパーティーはハッキリ言っていない。

爵位の低い貴族よりも金を持っている冒険者。

そんな冒険者は歴史を振り返っても片手の指で足りる程しかいない。

ただ、ゼルートがそこまで他人が聞けば腰を抜かすほどの大金を持っていると知っている者は殆どいない。

「冒険者なんだから、稼ぐ場所は複数ある。しっかりと稼げばこういった店で一回食べるぐらい、そこまで財布にダメージは無いだろ」

「それはゼルートだから出る発想よ。普通は稼ぐにしても色々と問題があるのよ」

「……素手で魔物を倒せばそれなりに経費を削減出来ると思うけどな」

ゼルートも冒険者が依頼達成の為に掛かる費用や、ダンジョン探索に必要な道具などは知っている。

ただ、冒険者が必要な道具の中で一番重要なのは己の命を預ける武器。

魔法専門の後衛職でも杖は真剣に選び、金に余裕のある弓使いは矢の鏃の素材を少々お高いのにする事もある。

「体術専門の人でも手甲等でお金が掛かるでしょ」

「それは解る。でも、ある程度レベルを上げればそこまでランクが高くない魔物であれば素手で倒せるだろ。前衛限定になるかもしれないけどさ」

「・・・・・・ゼルートが言いたい事は解かるわ。でも、ランクが上がればどんなに謙虚な冒険者にも見栄が生まれるのよ。それらを考えると、自分のランクに合うそれ相応の魔物を相手にしないといけないの」

「あぁ～～～、なるほどね。何となく解った」

アレナの言葉を大体理解した瞬間、後方から放たれた怒鳴り声がゼルートの耳に入った。