少年期[553]ボス戦前に休憩

「あっ、ちょっと並んでるみたいだな」


走って走って駆けて、速攻でニ十階層の最奥まで辿り着いたゼルート達。

しかし、大きな扉の前には複数の冒険者パーティーが座ってボス戦の準備をしていた。


(三組か……そこまで時間が掛からず終わるだろう。ニ十階層のボスはリザードとオークが数体。なんか不思議な組み合わせだけど、攻略法はある)


時間が掛からず終わるというのはゼルートの感想だが、攻略法は確かにある。

オークが倒されるまでリザードは積極的に動こうとしない。


基本的には遠距離からのブレスを狙っている。

それさえ注意していればオークを早く倒すことが出来る。その前に威力の高い一撃でリザードを葬ってしまうのも有りだ。


リザードはオークよりも動きが速いが、それでも尻尾の動きにさえ注意すれば攻撃を躱すことはそこまで難しく無い。

そしてリザードの防御力を突破出来る攻撃を繰り返せば、討伐に大きな代書も無く達成出来る。


「……視線が集まってるな」


「それはそうでしょう。三人はいま人の状態じゃなくて魔物の姿をしてるのだから」


「あぁ、そういえばそうだったな」


ダンジョンに入ってからゲイル達は普段の状態に戻っており、一目で普通の魔物では無いと解かる。

普通の従魔だと思われてしまうのは精々ラームぐらいだろう。


ただ、そのラームも舐めて相手すれば逆に食われてしまう常識外れの魔物。


「早く終わりそうだけど……多少の時間は掛かるだろうから、少し何か食べるか?」


「私は少し何か食べたい気分だ」


「僕もなにか食べたいかな~」


アレナとルウナは小腹を満たしたい気分であり、他三人はどちらでも良い気分だった。

あまりガッツリとした料理は良くないと思い、新鮮な果物を取り出してササっと食べやすい形に切る。


そして全員が更にのったフルーツをフォークで食べていく。

その光景に前に並んでいる冒険者達は、魔物が人の言葉を喋る様子とボス戦前にフルーツを食べながら休憩するという様子に驚きを隠せないでいた。


(うんうん、その気持ち良く解る。ドライフルーツならまだしも、新鮮なフルーツを食べてるんだからどういう事だって、言いたくなる。まぁ……羨ましそうな顔をするのも予想通りね)


冒険者達にはダンジョンでの探索中や、野営中に自分達で料理をしようという意識が低い。

特にルーキーにはその意識が低く、ベテランになってもそれをめんどくさがる者は多い。


その日のうちに食材になる素材をゲット出来れば問題無いが、移動する際に邪魔になるかもしれないと考えで放棄せざるを得ない場合がある。


「紅茶でもあればちょっとしたティータイムだよな」


「ダンジョンの中でティータイムというのもおかしいけれどね」


「でも、貴族ならセーフティーポイントを見つけてそこでティータイムをしたりするんじゃないのか?」


「・・・・・・そういえばそうね。その時はダンジョンの中でティータイムなんて馬鹿じゃ無いの、って思ってた。けれど……こうしてのんびりと休んでる現状を考えると、自分の考えが大分麻痺してきているという事が解るわ」


過去の記憶を遡り、貴族の護衛としてダンジョンの中を一緒に探索したことがある。

基本的に常識的な貴族ではあった。

性格に問題は無く、実力も申し分ない貴族だった。


ただ一つ……ダンジョン内でティータイムを始めようとしたときは焦りに焦りまくった事を覚えている。


(確かにセーフティーポイントは安全圏だけれど、私達にとってダンジョン内で常識だと思っている内容をぶち壊してくる魔物だっているのだから、あまり気を抜き過ぎる事は出来ないのに……)


元パーティーメンバーと一緒にその貴族から一緒にお菓子を食べようと勧められ、慌てて断ったが結局一緒にお茶をすることになったアレナ達。


人として、貴族としてまともな者ではあったが、冒険者であるアレナからすれば申す少し危機感を持って欲しいというのが本音であった。

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