少年期[551]もっと降りれば見つかる

「……当たり前だが、十階層の敵は大したことが無かったな」


「レッサーリビングデットだからね。普通のリビングデットはCランクのモンスターよ」


「歯応えが無さ過ぎてつまらなかったな」


十階層のボス戦を担当したのはルウナ。

十階層とはいうボス戦なので多少は相手に期待していたルウナ。


だが、その予想が見事に裏切られた。

冒険者になったばかりのルーキーにとってレッサーリビングデットは十分に驚異となる相手なのだが……ルウナからすれば一撃で終わってしまう、つまらない相手だった。


(おもいっきり不完全燃焼だろうな)


相手が鎧のモンスターということもあり、多少の本気を出して殴り掛かった。

その結果……鎧は粉々に砕け、魔石だけが残った。


「レッサーでは無いリビングデットもあれぐらいしょぼいのか?」


「いや、流石にそんな事は無いだろ」


現在ゼルート達は十階層のボスを倒し、十二階層に辿り着いた。

そして、そろそろひと眠りするのに丁度良い時間になったので長い休息を取ることにした。

因みに十階層以降もダンジョンの内装は変わっていない。


「どうかしらね。ルウナが本気で殴ればさっき同じように粉々に砕けると思うわよ」


「あぁ~~~……まぁ、ルウナが本気で殴ってしまったらCランクの魔物だと、一発であの世に逝ってしますか」


「それなら、リビングデットよりも上の種族なら問題無さそうだな」


「そりゃそうかもしれないけど……そう簡単に出会うとも限らないぞ」


ホーリーパレスには確かにリビングデットの上位種は現れる。

ただ、そう簡単に遭遇する相手ではない。


「上位種でもCランクは存在するけど、ルウナが満足するのはBランクからでしょう……そうなると、やっぱり中々遭遇しない筈よ」


「……つまらん奴だな」


「いや、意志でどうこうなる問題じゃ無いからな。でもまぁ……階層を下っていけば強い敵に遭遇するのは必然だろ」


「けど、今のところ弱い魔物ばかりだよね」


「そりゃ階層が浅いからな。四十階層辺りからは楽しい探索になるだろ」


十階層からニ十階層の間ではラーム達が満足する魔物とは殆どの確率で遭遇しない。

稀にその階層に見合わない魔物が出現する場合もあるが……そんな存在が運良くゼルート達と遭遇するとは限らない。


「とりあえず、四十階層まではかっ飛ばしていく」


「宝箱とかも基本的に無視で良いのよね」


「……あぁ。良い物を逃している可能性はあるだろうけど、このダンジョンに潜るのは依頼の為だからな。流石にそこら辺はきっちりと動かないとな」


仕事に私情を挟んではならない。

冒険者としてではなく、仕事を行う者達にとって当然の行動だ。


それが仕事に大して有利に運ぶ流れになる事もあるかもしれないが、今回のゼルートの頭の中にちょろりと浮かんだ私情は完全に仕事の邪魔になる。


「そこら辺はしっかりとしてるのねぇ……でも、熱くなり過ぎたら忘れてそうね」


「……否定出来ないところが悔しいな」


熱くなり過ぎると周りが見えなくなり、目的を忘れる。

それが絶対に無いと自分の性格的に解っているゼルート。


(仲間や家族の事を馬鹿にされたら絶対に殴り掛かりそうだからな……別に殴り合いになっても良いが、正当防衛的な状況をつくる努力はしないとな)


ムカつく相手はやはり殴らないとスッキリしない。

ただ、殴るまでの状況はしっかりとつくらなければならないと、最近になって思い始めた。


(でも……俺に喧嘩を売ってくるようなような連中って、大体無駄にプライド高い奴らばかりだよな……それなら、こっちも口撃すれば問題無く殴り合いに発展するか?)


あっさりと解決策が見つかりそうなゼルートはニヤニヤと笑みを浮かべ始める。


「ゼルート、あなた何を考えてるの?」


「へっ? 殴りたい相手を挑発して、俺は悪く無いって状況をつくってからぶん殴る方法」


「・・・・・・はぁーーーーー、あなたらしいわね」


まはやそういうところにツッコもうとは思わないアレナだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る