少年期[550]それが本能だ
「……アレナはあれか、やっぱりあんまり必要な魔物意外とは戦いたくないか?」
「えっ、あぁーーーー・・・・・・正直、どちらとも言えないって感じね」
アレナはおそらく素材が必要な魔物との戦いは必要無い。
そう考えているであろうと思っていたゼルートとしては意外な返答だった。
「そんなに驚くこと無いでしょ。前衛冒険者なら、ある程度私みたいな矛盾を抱えている人がいるわよ」
「えっと……魔物と戦ってる時にはそういう感覚が無くなるって事か?」
「あら、良く解ったわね。そうよ。戦っている間はなんていうか……勿論戦っている魔物の強さにもよるけど、今自分は挑戦しているんだって思うと・・・・・・自然と余計な感情は消えてるのよね」
高ランク冒険者になればなるほど、ダンジョンに潜る際などは余計な魔力を消費したくないので討伐対象以外の戦闘を控えるようになる。
ポーションも無駄に使いたくない。
そういう思いから、本当に必要以外は無駄だと考える者が多くなるのは必然と言える。
それが解っている冒険者が殆どが……冒険する者、だからこそ冒険者。
理性が全てを支配している者以外は、たまに冒険者としての本能が理性を振り切ってしまう事がある。
(アドレナリンがドバドバ流れてる状態になってるんだろうなぁ……その感情こそが、冒険者としての本能なんだろうな。戦えば戦う程に……その感情が深く刻まれる)
ゼルートが過去一ヤバいと感じた戦いはゲイルとの戦いと悪獣との殺し合い。
自身の力量を考え、十分に負ける可能性はあった。
悪獣との戦いの時に全ての手札を使った訳では無いが、それでも枷はすべて外して戦いの事以外、頭から全て消えていた。
「そういう感覚があるから、あんまり討伐対象の魔物意外との戦闘は全て無駄だとは思えないのよ」
「・・・・・・つまり、アレナもなんだかんだ言って冒険者だという訳だな」
「ふふ、確かにそういう事ね」
Aランクまで駆け上がったアレナの芯には、しっかりと冒険者としての本能が刻まれていた。
そして……それはこの場にいる全員に言える内容だった。
「そういえばゼルート、少し考えてたのだけど……あなた、依頼に必要な素材が全て手に入って、期間までまだ時間があったらどうするつもりなの??」
答えは殆ど解っていた。
解っている。ただ……やはり一応聞いておかなければならないと思っている。
そしてその返答は……やはりアレナが予想していた通りの答えだった。
「そりゃまだ未探索の階層を冒険するでしょ」
「私はそれに賛成だな。もっとも、今回の依頼は中々お目当ての物が手に入らなさそうだから、その時間が手に入るかは分からないが」
「自分達が本気で潜れば問題無いでしょう。最下層まで降りれるかは別ですが」
「未探索の領域を探索……これぞ冒険といった感じですね」
「僕はそんな冒険してみたいなぁ~~。いっぱい暴れても良いんでしょ?」
「ほどほどにしてくれよ」
現在確認出来ている最下層まで降りれば確かに活動している冒険者の数は減るが、それでも全く遭遇しないという訳では無い。
そんな状況でラームが好きな様に暴れれば……当然、迷惑を掛けてしまう恐れがある。
「ついでにマッピングしてギルドに渡すか」
「……七十層のボスの詳細まで解れば、とんでもない額で売れるでしょうね。でも、ゼルート。そんな事したらまた名が売れるわよ」
「それは……でも、ある程度のランクまで上げるとは決めたから問題無くないか?」
「また仰々しい二つ名候補が上がったとしても?」
「ッ!?」
戦鬼覇王、その二つ名がカッコ悪いとは思っていない。
ただ……単純に恥ずかしいという思いがあった。
それよりも恥ずかしいと感じてしまう二つ名など……羞恥心で死んでしまう、かもしれない。
そんな事は無いだろうが、二つ名で呼ばれるためにゼルートが恥ずかしいと感じる事は間違いないだろう。
「あぁ~~~~……それはよろしく無いな。でも、それがあれば助かる命があるかもしれない訳だからな……とりあえずギルドに匿名で容認してもらうか」
「まっ、それが妥当ね。目立つのが悪いことでは無いけれど、目立ち過ぎる件が続けば……厄介事が降って来るわよ」
「それは勘弁してくれって話だ……とりあえずその話は置いといて、そろそろ出発するか」
小休憩が終わったゼルート達は再び下の階層を目指して走り出す。
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