少年期[547]一応反省している

「……ゼルート、あなた結構楽しんでたでしょ」


「あぁ~~~~……まぁ、ぶっちゃけ結構楽しんでた」


「でしょうね。まったく……結果として悪くは無かったけど、良くも無いから」


悪意をぶつけてくる相手よりも反応が面白かったので、ゼルートにしては長く弄っていた。

一般的なルーキーならそんな命知らずな真似はしないが、ゼルート程先に先へと入っている実力者からすれば、Bランク程度の冒険者には負けないという自信がある。


(にしても韋駄天のベーザル……韋駄天って確か脚が速い守護神、もしくはよく走る守護神だったか? にしてはあんまり俺の速さに反応出来てなかったけど)


反応こそしていたが、反撃どころかガードすら間に合っていなかった。

韋駄天と呼ばれるからには何かしらのスキルを有しているかもしれない。


ただ、そうだとしてもゼルートが速さで負ける要因にはならなかった。


「どれほどの相手かと思えば……あまり大した冒険者では無かったか」


「あんまりそう言ってやるなよゲイル。正直なところ、俺の一撃はほぼ不意打ちだからな」


「ですが、開始の合図はしていたではないですか」


「一応な。でも、ベーザル達にとっては訓練場に移ってから模擬戦をするつもりだった。それを考えればベーザルが殆ど反応出来なかったとしても仕方ない」


いつ、どこで何が起こるか解らない。だから警戒を怠るな。

冒険者になったばかりのルーキーはギルド職員や先輩冒険者からその様な注意を何度も受ける。


その注意を素直に聞くルーキーと、無視するルーキーに別れるが……最終的に無視していたルーキーもその注意が見に染みて解るようになる。


ベーザルはその注意に関して、深く理解している。

冒険者が一般的に生活する中でも突発的な事件が起きるが、ダンジョン内を探索している冒険者達はより理不尽な問題に直面する機会が多い。


なので、他の冒険者と比べてそういう意識は高い……だが、今回は見事にゼルートの正拳突きを食らってしまった。


「……真正面から戦えばどうなんだ? 韋駄天という二つ名があるということは速さには自信があると思うが」


「いや……どう足掻いても速さに関しては俺が勝つだろ。勝負も勝つけどさ」


「一応向こうは二つ名持ちのBランクなのよ」


「それは解ってる。でも、疾風迅雷に付いて来れるとは思えないな」


「はっはっは、確かにあれの速さを考えると速さで対抗するのは無理だろうな」


初めてゼルートと出会った時、まったくその速さに反応出来なかった事実を思い出すルウナ。

あの頃よりもルウナは成長しているが、それでも振り切った速さを持つゼルートのスピードに付いて行ける気はしない。


「変な気を起こさないと良いのだけどね」


「そこら辺は大丈夫じゃないか? パーティーの魔法使いは冷静な判断を下せそうな人だったし、バカなことをやってしまう心配は無いだろう」


「……そうね。根は真面目そうな人だし、面倒事は起こらないと思って良さそうね」


人間裏と表があるものだが、今回の一件は大勢の目撃者がいた。

仮にこの街でゼルート達が消息不明になれば、大勢の者達が犯人はベーザル達では無いかと疑う。


(……もし、もしかしたらだけどベーザル達に恨みを持っていたり嫉妬している奴らが罪を被せる為に、俺達に被害を加えようとするって可能性は……ありそうな気がする)


過去の例として、そういった事件が無かった訳ではない。

なのでゼルート達はダンジョン内でそういった襲撃を警戒しておく必要がある。


「ゼルートさんの周りは事件絶えませんね。私としては退屈しないので良いのですが」


「不本意ながら絶えないみたいだな。まぁ……ベーザルと揉めたのは俺がちょっと煽り過ぎたってのはあるけど」


「どれだけ温厚な人であっても、相手は冒険者なのよ。限度ってものがあるに決まってるじゃない。確かにゼルートにはあれぐらいの相手なら吹き飛ばせる力あるけども」


「分かったって。ちょっとやり過ぎたと思ってるよ」


今回の件はゼルートも少々やり過ぎたと反省している。


(今日はゆっくりと休んで明日からダンジョン探索開始だ)

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