少年期[546]全員から感じた

「それで……どうするんだ? まだやるか、韋駄天のベーザル」


全く体力の魔力も消費していないゼルートに対し、ベーザルも仲間の治癒によってあばら骨の罅は治ったが、精神的な面で大ダメージを受けている。


「……君は、本当にDランクの冒険者なのかい?」


「あぁ、間違いなくDランクの冒険者だぞ」


ベーザルが疑問を持ってしまうのは仕方ないが、ゼルートは紛れもなくDランクの冒険者。

ただ、実力と経歴だけはDランクのそれでは無い。


「そんで、俺の実力は下層を探索するのに適していないか? あっ、因みに俺の仲間は全員強いからな」


ゼルートは自信満々に事実を伝える。

それに応えるようにアレナ以外が胸を張って誇らしげな表情で答える。


「ッ・・・・・・すまなかった。僕の眼が悪かったようだ」


「そうか、解ってくれたようでなによりだ」


相手の力量を見切ることが出来なかった悔しさはある。

ただ、それ以上にBランク、二つ名持ちの冒険者というプライドがDランクのゼルートに不意打ちに近いとはいえ、一撃で吹き飛ばされてしまった事が心底悔しい。


見た目で実力を判断してはならない。

それはベーザルも頭では理解していた、しているつもりだった。


しかし初めて面と向かったゼルートに実力も経験も

感じ取ることが出来なかった。だが……今ならその一端が感じ取れる。


(あれだけの速さと力がある冒険者がDランクだと? それは絶対にあり得ない!!!)


現実としてあり得るのだが、確かにゼルートの外見的年齢を考えるとあり得ないと判断するのが正しい。

だが、冒険者のランクに関してはD以上だとそれはそれでおかしい。


ゼルートの様に短期間でランクを上げた者は過去に存在するが、冒険者になってから二年も経たずにDランク以上まで駆け上がった例は殆ど無い。

精々Cランクで止まっている。


なのでベーザルの考えは決して間違ってはいない。


「言っておくが、俺は正真正銘のDランクだ。まだ疑ってるなら、受付嬢に聞いてみても良いぞ。特に秘匿している情報でもないからな」


それだけ言うとゼルートはギルドから出て行った。

そしてゼルートに続いてアレナ達もギルドから出て行く。


「……クソッ!!」


ゼルート達がギルドから出て行った後、ベーザルは拳を握りしめながら眉間に皺を寄せて表情を歪める。


「ベーザル、歳下の冒険者に不意を突かれたのは先輩として悔しいのは解りますけど、変な気を起こさないでくださいよ」


「解っている……ただ、それとこの感情は別だ」


頭では解っている。

しかし本能はマグマの様に煮え滾っている。


叶う事なら正式なタイマンで叩きのめしたい。嘗められたままで終われない。

そんな熱く黒い感情が収まらない。


「はぁーーーーー……同じ冒険者として、その感情は解らなく無いわ。でも……止めておきなさい」


「……それは、君の危機察知の警告かい」


ベーザルの仲間である魔法使い、ニーナには危機察知というギフトを持っている。

スキルも同じ名前の危機察知があるが、ニーナが持つギフトの性能はスキルの比ではない。


「その通り。あの子供からはもちろん……正直に言うと、あのパーティー全員から危機を感じたわ」


「ッ!!! そこまで強者が揃っているのかい!?」


ニーナの危機察知はただ強者という相手だけではなく、何かに尖ったステータスを持つ相手も対象になる。

ただ、その場合は危機察知がニーナに知らせる危機の大きさが異なる。


今回の場合は、ゼルート達からは強者であるという危機が感知された。


「残りの可愛い女の子と子供にも、ね。見た目で実力を判断するな。何度も言われた言葉だけれど……その言葉がピッタリ当てはまるパーティーね」


ニーナも正直見た目だけならばゼルート達の実力を見余っていた。

特に見た目が子供である三人の実力は完全に見切れおらず、危機察知が無ければベーザルと同じ結果を辿ったかもしれない。


「そういう訳だから、バラッドも怒りを抑えてよね。絶対に返り討ちに合うだけなのだし、無駄で面倒な問題は起こさないで」


「うぐっ……クソがっ!!! 分かったよ!!!」


パーティーの中では少々喧嘩っ早いバラッドだが、ニーナの危機察知の結果は信用しているので無理矢理ゼルートに対する怒りを収めた。

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