少年期[525]今でも十分なのに
「ど、どうやって捕まえたんですか?」
「えっと……まぁ、そこは企業秘密って事で」
闇魔法を使えること自体があまり忌避される事では無いが、それでもスリープドリームはあまり他人に使って良い魔法では無いのでゼルートは拒否権を使う。
「そ、そうでか。分かりました」
受付嬢も冒険者が手の内を容易にバラしたくないという気持ちは解るので、無理に訊こうとはしない。
「ただ、こいつもしかしたら成長してるかもしれないから、首輪着けるなら早くした方が良いですよ」
「かしこまりました。そちらは職員の方に伝えます。ゼルートさんに報酬金を渡すのでもう一度ギルドに入って貰っても良いですか?」
「分かりました」
ギルドの前には檻の中で寝ているフォレストリザードを一目見る為に野次馬がかなり集まっていたが、直ぐにギルドの職員がやって来てフォレストリザードを閉じ込めている檻ごと運んでいく。
「こちらが報酬金になります。お間違いないか確認してください」
「……あぁ、しっかりと丁度あるよ」
そこそこ高い額の報酬金を受け取ったゼルートの顔はホクホク顔になっていた。
アレナとしても特に問題があった訳では無いのでホッと一安心。
ラームの頭の中には既にフォレストリザードのことは消えており、少しお腹が空いてきたので食べたい料理を考えていた。
「お疲れ様でした」
「どうも」
ゼルートとのやり取りが終わった受付嬢はアレナと違った意味でホッと一安心する。
(ほ、本当にフォレストリザードを捕まえてしまったんですね。見た目以上の強さは持っているのだろうと思ってたけど、特に消耗した様子もなくフォレストリザードを……もしかして悪獣を単独で倒したという話も本当なのでしょうか?)
ゼルートがダンジョンから溢れ出したモンスターの大群のボスである悪獣を単独で倒した話はあまり信じられていない。
理由は簡単であり、悪獣のランクはS。
どんなに強力なスキルを有していようと、まだ十二歳の子供が単独で倒せる筈が無い。
それが、一般的な意見だ。
(元Aランクのアレナさんや従魔のスライムが普通のスライムでは無い仲間がいるとは言っても……でも、やっぱり完全に見た目が子供のゼルートさんがSランクの悪獣を倒したとは思えませんね)
どのような魔法が使え、どのような武器が使えるのか。
そんなゼルートの大体の戦力をギルドは知っているが、本当に細かい部分までの能力は知らない。
「これからどうするの?」
「僕はちょっとお腹空いたなぁ~~」
「そうだなぁ……うん、五時ぐらいまで露店でちょっとつまみながら一旦宿に帰るか」
ギルドを出てプラプラと歩くゼルート達は夕食までの目的を決め、のんびりとゴージャルの街を散策する。
「ゼルート、今回の依頼であれを売れば相当なお金がまた入って来るでしょうけど、何かを買いはするの?」
「美味しいお肉なら大歓迎だね!!!」
「ん~~~……確かに俺も美味しいお肉は大歓迎だけど、それ以外の物に興味が無い訳じゃ無いし……悩むところだよな」
ゼルートのアイテムバックの中には既に多数の魔剣や魔槍、魔斧などが入っている。
ただ、ゼルートが随分と前に国王から褒美として貰った武器ほど価値が高く、性能が高い武器は持っていない。
「……ゼルート、また自分以外の為にって考えていない?」
「いや、別にそんなこと無いぞ。自分のことだってちゃんと考えてる」
「でも自分以外の事も考えてるんでしょ」
「そりゃ……まぁな」
アレナにはゼルートの表情から何を考えているのかバレバレであった。
「私は今の武器で十分に満足しているのよ。ミスリルを使った長剣なんて普通に考えてAランクの冒険者が持つ武器なのよ。紫電の刃だって十分過ぎる業物なの」
「うぐっ、でもなぁ……それでもいざって時に強い武器があって損は無いだろ。ラームだってそう思うよな」
「ん~~、ゼルートはちょっと気にし過ぎだと思うけど……でも今まで通り冒険してたらそんな場面にもまた遭遇するだろうね」
「それはまぁ……否定出来ないわね」
前回の超大乱戦に遭遇しないとは断言出来ない冒険者生活を送っているゼルート達。
今はまだ全員が悪獣の様な正真正銘の化け物と戦う様な事態と遭遇したことは無いが、それでも不安を残さない様にゼルートは最善の選択肢を取るつもりだ。
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