少年期[523]普通の馬では無く
「こっちの事情を汲んでくれて助かったぜ」
「俺達も捕獲依頼を受けていたからな。もしかしたらって思っただけだ」
ゼルートがロックバインドで動きを完全に止めた事で冒険者の一団は無事、バトルホースを捕獲する事に成功した。
捕獲依頼の報酬額は討伐依頼と比べて高いので一団は皆ホクホク顔になっている。
「俺はダックって名前だ」
「俺はゼルートだ、よろしく」
名前を名乗られたので礼儀として名乗り返したゼルートだが、その名を聞いたダック達四人は目を丸くして驚く。
「ゼルートって、もしかしてあのゼルートなのか?」
「どのゼルートかは分らないけど、少し前に悪獣を倒したゼルートではある」
その問いに四人は何となくではあるが納得した。
拘束系魔法であるロックバインドだが、バトルホースの動きを完全に止める程の強度となれば、相当な魔法の腕が必要になる。
ただ、少し何か足りないと思う。
「その……あれだ、ドラゴンとリザードマンと、後もう一人仲間がいた筈だろ。もしかして別行動なのか?」
「あぁ、残りの三人は捕獲依頼みたいなあんまり魔物を傷付けないって依頼を苦手らしいからな。だからそういったことが比較的得意な俺達がフォレストリザードの捕獲依頼を受けたんだ」
「そ、そうか。まぁ、悪獣を倒した実力を考えれば問題無いか」
「そういう事だ」
捕獲依頼には報酬依頼が高い分、通常より多い人数で挑むことが多い。
ダック達四人は今回はバトルホースを逃がしてしまうという失態を起こしてしまったが、捕獲依頼は他の望遠者達と比べて慣れているので四人で挑んでいる。
ただ、まだこの街に着て数日程しか経っていないと言われているゼルート達が捕獲依頼に慣れているとは思えなかった。
しかしバトルホースの動きを容易に止めてしまう程の拘束魔法が使えるならば、経験数の少なさは特に問題無いように感じた。
(接近戦だけじゃ無く、魔法面の腕も高いって聞いていたが……間違った情報って訳じゃなさそうだな)
ダックは自身が悪獣を倒したゼルートと名乗った事自体には疑いを持っていなかった。
自身の名を偽り、他の冒険者の名を名乗ればそれがバレた時に喰らうダメージは洒落にならない。
それが解らない程馬鹿には見えず、何よりバトルホースをロックバインドで動きを封じる力量が信用に値した。
「そんじゃ、俺達はこいつをギルドに持っていくよ。ダック達もバトルホースの目が覚める前にさっさと持ってちまえよ」
「お、おう。問題無いと思うが、気を付けてな」
捕獲依頼を成功させた冒険者達を横から奪おうとする不届き者が全くいない訳では無く、受付で依頼を受理していないので依頼の成功報酬は貰えないが、討伐すれば報酬は貰えるのでそういったカス共が一定数存在する。
「やっぱりダック達も捕獲依頼を受けていたんだな」
「そうね。でも、渡す相手はカジノじゃ無くて……もしかしたら貴族が相手かもしれないわね」
「なんでだ?」
「普通の馬と違って活動時間が長くて速度も速い。戦闘になった時にそう簡単に殺されることも無い。貴族の中には自分の馬車を引かせる馬をバトルホースにする人がそこそこいるのよ」
「へぇ~~~……見栄を張りたいって訳か。でも、そう簡単に手に入る馬じゃ無いだろ」
ゼルートの様に的確なタイミングでロックバインドを発動し、動きを完全に封じられる拘束魔法は稀であり、捕獲依頼を頼むなら少々躊躇う程の金額が掛かる。
「そうよ。貴族に仕える兵士や騎士達はそういった器用な事が出来る人が少ないでしょうし……結局は冒険者に頼るしかないのよ」
金が掛かっても見栄を張りたい、もしくは同じ貴族に対して自身の財力を見せつけたい。
そこが決して消えることは無い貴族の考え。
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