少年期[502]何故かカジノの近くには

「なんで質の良い紙はあんまり無いのにトランプだけはしっかりとしてるのか……謎だ」


「あら、トランプは知っていたのね。噂だけで、レベルの高いカジノを有する街の近くには何故かダンジョンが現れやすいらしいのよ。そのダンジョンでは宝箱にトランプが入ってるの。私も何度か宝箱からトランプを手に入れたけど、全てギルドに売ったわ。そこそこ良い値で買い取ってくれるしい……ハズレと考える冒険者もいるけど、人によっては当たりだと考える人もいる」


「……そこそこ良い値で買い取ってくれるなら、人によっては確かに有難いかもな。でも、ルールを覚えるのはちょっと面倒だし……まずはルーレットで適当に遊ぶか」


「ルーレットのルールは知ってるの?」


「いいや、全然知らない」


前世では学生であったゼルートはギャンブルのルールなど知る訳が無く、ルーレットの場合はせいぜい赤黒に賭けるか三分等分に別れたマスに賭けるか、その二つぐらいしか分からない。


「だからディーラーにサラっと教えて貰う。……というか、アレナは一回ぐらい来たことあるんだろ。ならアレナが教えてくれよ」


「……ルーレットぐらいな多分覚えてるわよね。良いわ、そんなにルールが変わるようなギャンブルじゃ無いし」


こうしてテーブルに座る前にゼルートはアレナからルーレットの賭け方を教えて貰い、人生初めてのギャンブルに挑む。


ゼルートとアレナが座ったテーブルは全員成人を迎えている大人だが、テーブルに座って来たゼルートに特に絡もうとはしなかった。


それはゼルート並みの子供でも貴族の子息ならこういった場に来ることがある……というのもあるが、大半は突然やって来たアレナの美しさに目を奪われたからだ。


貴族の令嬢とは違う力強い美しさに目を奪われた男達だが、直ぐに何事も無かったように取り繕う。

だが、目はチラチラとアレナの方を見ている。


(確かにアレナは綺麗だけど、美女や美少女を見慣れているこの人達がチラチラと見てしまう程アレナは美人なのか……もしかしたら俺が一緒にいたとしてもナンパされる可能性は大きそうだな)


『ねぇねぇゼルート、ここにいる人からも奪っちゃう?』


『ん? あ、あぁ。そうだなぁ……全員じゃなくて良い。二人ぐらいで良いよ』


『りょーかい』


ゼルートとアレナを除いてテーブルには六人のギャンブラーがマスにチップを置いて行く。


目的はギャンブルを楽しむ事なので、ゼルートは先ず赤黒の場所から賭けていく。

ただただ楽しむためにチップをマスに置く。


しかしアレナにはゼルートの表情がとても自信満々な表情に見えた。

なので様子見としてアレナはゼルートと同じマス……黒にチップを置いた。


そして時間一杯となったギャンブラーはルーレットを回し、運命を決める玉を放つ。


ゼルートと同じように気楽そうな表情で眺める者や、真剣な表情で玉の行方を見守る者。

表情に焦りが丸見えであり、両手を重ねて握りしめて神に祈る者もいた。


そして放たれた玉は・・・・・・黒の十へと落ちた。


その結果に喜ぶ者、落胆する者、次のギャンブルに期待する者など表情は様々。


赤黒で黒に賭けたゼルートとアレナには倍のチップが返ってきた。


「これで金貨が十枚から十一枚に増えたって訳か」


「今すぐ換金するならそうなるわね。どうするの? 別に引いても良いと思うけど」


「何言ってんだ。まだまだこっからに決まってるだろ」


(にしても……こんな数十秒で金貨一枚が二枚に増えるのか。日本円にして二百万円……そりゃ中毒者になってしまう奴が現れてもおかしく無い、か)


ゼルートにとっては完全なる遊び。

本業である冒険者稼業で十分に稼げるのでギャンブルに没頭するつもりは無い。


だが、それはこのカジノで遊んでいるギャンブラーの殆どがそうである。

しかしそれでもギャンブルという他の遊びには変え難い快感と緊張感にハマってしまう人がいる。


一般人であろうと、商人であろうと冒険者であろうと、貴族であろうとそれは変わらない。


それでも……ゼルートには総合的に見れば絶対に負けない保険があるので、その表情から楽しさが消えることは無い。

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