少年期[490]呆れる者と認める者

「あ~~~~あ、結構本気でイラついてるわね。キレてるゼルート相手に良い度胸してるわよ、あの坊ちゃん君」


「いや、単にゼルートの事を知らないからあそこまでデカい態度を取れるんだろう。見ていた感じ、護衛の兵士達と絡まれていたBランクの冒険者達はゼルートの事を知っているようだ。だから冒険者達はゼルートに対して嘗めた態度を取ってないし、兵士達も坊ちゃんに引くように伝えた」


「主を危機から守るためにナイスの行動と言えるのだろうけど、もう少し強引にでも引き下がらせた方が良かったでしょうね。でも……それを出来ないのが雇われている身としては辛いところなんでしょうけど」


ゼルートが開放する怒気や殺気にはある程度慣れている二人は特にあの場に介入するつもりは無く、ただ坊ちゃん貴族を守るための兵士たちを気の毒に思っていた。


『あの子供、物凄い馬鹿だね。ゼルートを怒らせるなんて、殺してくれって言ってるようなものなのに』


『会話の様子を聞く限り、あの子供はゼルートさんの事を知らなかったのでしょう』


『えっ、そうなの!!!??? ゼルートが立てた功績は凄いって皆言ってたのにあの子供は知らなかったの??』


従魔のラームはゼルートと関わる人々の多くがゼルートが立てた悪獣を一人で討伐したという功績を褒めているの見ていたので、なぜ坊ちゃん貴族がゼルートの功績を知らないのか不思議でならない。


しかしラームより物事を考えられるラルはその理由が解っていた。


『ゼルートさんは実力があっても見た目がまだ子供ということもあって、その話自体が信用出来ない人が多いのでしょう』


『それは……確かにしょうがないことなのか。僕達も人の姿でいる時は見下してくる連中が多いし』


ラームの場合は人の姿だけでは無く、通常時でも同じことなのだが……ラルはそれを口に出さずにそっと心の中にしまった。


『それと、ゼルートさんの見た目が正確に他の人達に伝わっている訳ではありません。なので、そもそもゼルートさんが自ら名乗ったとしても信じる人はあまりいないのではないでしょうか』


『ん~~~……あれだね、やっぱり人間は面倒だって事が解かった!!!!』


『・・・・・・そうですね。それには同意です』


ラームは結局何故坊ちゃんがあそこまで身の程知らずなのかあまり理解出来なかったが、人と言うのはやはり面倒な生き物だという事だけは再確認した。


そんなラームに対してラルは目の前のおバカな坊ちゃんに一切の同情はすることなく呆れていた。


そしてゼルートに対して噂の半分は本当かもしれないと思っていたBランクの冒険者達は、目の前の坊ちゃん貴族と兵士達に哀れな視線を向けている。


(こいつはぁ……本当のマジで噂が本当だったみたいだな。こんな見た目だが、この殺気や怒気の感じ……こいつは本物だ)


ゼルートの怒気と殺気を感じ取ったBランクの冒険者達は全員ゼルートの事を本物の強者だと認めた。

それと同時に、この街の中に入った後にゼルートがこの件に関して面倒ごとに巻き込まれたら証言者として協力しようと決める。


「な、おっ、お前……こ、この、僕が、ががが、誰だか分かって、るのか……」


ゼルートの怒気と殺気に当てられてまだ傲慢な態度を崩さない様子だけは呆れを通り越して賞賛に値るする……かもしれない。


ただ、それでもゼルートに対して怯え、恐怖の感情は消えていない。

それどころか足がガクガクブルブルと震えて止まらない。


そして貴族としては最悪な事に……なんと坊ちゃん貴族の息子から尿が垂れながれ始めた。


「おいおい、威勢を張るならもう少し自分の状況を考えろよ」


「えっ……な、な、あぁっ、あっ!!!!????」

 

坊ちゃん貴族はようやく自分の状態に気付き、焦ってなんとか失態を隠そうとするが既に手遅れな状況になっていた。

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