少年期[489]言ってはいけない一言
一つのパーティーと一人の坊ちゃん貴族の争いは列に並んでいる人達にとっては良い暇つぶしになっている。
それに対して貴族側の列に並んでいる者達は不満そうな表情をしていた。
「アレナ、なんで他の貴族は不満そうな顔をしてる人がいるんだ? やっぱり冒険者が子供とはいえ貴族と対立してるからか?」
「ん~~~……そうでは無いと思うわね。それだったらあの人達が言い争いを始めた段階で誰かが坊ちゃん側に加勢してる筈よ。でも、それをしなかったという事はこの場にいる貴族は良識のある者達だと考えて良い筈」
アレナの言う通り、列に並んでいる貴族はBランクの冒険者が並んでいる事になんら不満は無かった。
しかも冒険者達は自分達がBランクであると坊ちゃんに証明するためにわざわざ冒険者カードまで出している。
そのお陰でBランクの冒険者達を責める様な視線は無い。
「だから、あれはきっと子供とはいえ自分達貴族にとって恥さらしだと不満に思っている表情じゃないかしら」
「あぁ~~、なるほど。そういう事ね。でも、だったらあの坊ちゃんに同じ貴族が正論をぶちかませば良いんじゃないか?」
「それがそうもいかないのでしょ。もしかしたら、あの子供の親が面倒な相手なのか……それとも単に爵位自分よりも上の家だからあまり関わりたくないかのどちらかじゃないかしら」
Bランクの冒険者と言い争っている坊ちゃんの親は伯爵家であり、家自体もそれなり裕福。
中堅層の中ではそれなり権力を持っている家なので他の貴族としてはあまり変に関わりたくない家なのだ。
(虎の威を借りる狐……ではなく、親の権力を借りるクソガキか。ああいう行為を親が黙認しているのか、それとも周囲の人間がそれを伝わらない様にしているから、まともな知識が無いのか……確かに関わりたくない相手かも)
結論として坊ちゃんの親は良識人であるのだが、坊ちゃんと接する人間の多くが坊ちゃんの性格を悪い方向に伸ばしてしまう人だったので、結果上手いこと顔を使い分ける子供になってしまった。
もうそろそろ自分の番になるので、早く中に入りたいという気持ちが膨らんで来た。
しかし、坊ちゃんのある一言でゼルートの理性が一気にぶっ壊れてしまう。
「薄汚い冒険者が! 調子に乗るのもいい加減にしろよ!!! お前達は黙って僕に順番を譲れば良いんだよ!!!!」
「たくっ、話の通じない坊ちゃんだなぁ~~」
薄汚い冒険者。そう言われた冒険者達は特にその言葉を気にしていないのだが、約一名……その言葉に関して敏感な者が一人いた。
「なぁ・・・・・・あのクソガキ、今なんて言った」
「薄汚い冒険者が調子にのるなよ、っと大きな声で叫んでいたな」
「ちょっとゼルート……あ~~~、もう。やるならささっと終わらせてよ」
「分かってるよ。ゲイル、ちょっとついて来い」
「かしこまりました」
自分達に向かって言われた言葉では無いと分かっている。だが、それでもその言葉を聞いた瞬間にゼルートの目つきが一変する。
ゼルートは自分が馬鹿にされること自体はそこまで気にしないが、それでも自分の仲間や両親を侮辱されれば一気に沸点まで達する。
もちろん、相手がクソガキとはいえ速攻で暴力を振るうつもりは無い。
それでもゼルートとしては見逃せる言葉では無かった。
「おい、今の言葉は聞き捨てならないな」
「ッ!! なんだお前は!? 今はこいつらと話してるんだ、お前みたいなガキに用は無い! さっさと失せろ!!」
「お前も十分ガキだろ」
ゼルートのストレートな言葉に絡まれていた冒険者のその他の者達も思わず小さく笑ってしまう。
自分が馬鹿にされたという事と、恥をかかされたと自覚した坊ちゃんは顔を赤くしながらゼルートに食って掛かる。
だが、護衛の兵士達だけはゼルートに……正確にはゼルートの後ろに立っているゲイルに覚えがあり、体が震え始める。
「ぼ、ボンス様、ここは大人しく下がった方が身のためかと……」
「ふざけるな!!! こいつらが誰であろうとこの僕が引き下がる理由にはならん!!!」
何がそこまで坊ちゃんの威勢を助長させる要因なのかはゼルートには絡まれていた冒険者にも分からない。
ただ、絡まれていたBランクの冒険者は興味が完全にゼルートへと移っていた。
(この子供……最近噂のあるルーキーの中でリザードマンを従魔にしてる奴といえば・・・・・・マジか? 本当にそうだとしたらこの坊ちゃん、マジで終わったかもな。間近で視るとどうやらあの噂は完全にデマって訳じゃ無いみたいだしな)
悪獣を単独で倒したかはまだ解らないが、それでもゼルートがただのルーキーでない事を瞬時に見抜いたBランクの冒険者達は心の中で坊ちゃんに笑いながら祈りを送った。
「おい、クソガキ。あんまり調子に乗るなよ」
その一言でゼルートは押さえてい怒気を解放させた。
たった一言で一般市民、商人、貴族、冒険者等関係無しに震え上がらせた。
次の瞬間、坊ちゃんには目の前のゼルートがただの子供には見えなくなっていた。
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