少年期[488]その権力はどこまで通用するのか

いつも通り非常識な会話を終えて就寝した翌日、三人は昼前には目的の街であるゴージャルに到着していた。


「はっ、はーーーーー・・・・・・こりゃまた豪華な街って感じだな」


「私も初めて見たけど……王都や他の大都市と比べて別の意味で賑やかね」


「なんか……賑やかなのは分かるけど、目がチカチカする」


ゴージャルの中に入るために門に並び始めてか約一時間、途中で遅すぎると騒ぎを起こす者もいたが、ゼルート達は大人しく雑談をしながら自分達の番になるのを持っている。


行列の中には貴族専用のルートで中に入っていく貴族に恨めしそうな視線を向ける者もいる。


「ゼルートも貴族なんだし、向こうの列から入れたりしないのか?」


「いや、俺は正確に言えば貴族では無く、貴族の子息だ。別に権力を持っている訳じゃ無い」


例え公爵家の息子であろうと、男爵の称号を持つ同年代に刃向かうのは良い選択とは言えない。


「つか、そんな事しようとしたら他の貴族に絡まれて面倒な事になるのは確実だ」


「そうか……そうだな。その光景が容易に目に浮かぶ。ただ、Bランク以上の冒険者ならば男爵と同じ地位を持っているのではなかったか?」


「ルウナの考えは合ってるわよ」


Bランクの冒険者は戦闘に関しては一流を示すラインであり、Bランクに昇格した際に国から男爵と同程度の権力が与えられる。

しかし、だからと言って悪い意味で貴族らしい貴族の様に好き勝手出来る訳では無い。


「でもその権力が通用するのは戦いの場でのみよ。他のパーティーと集団で行動する際にその中にBランクのパーティーが基本的に主導権を握れるの」


「へぇーーー。でも、そうなると横暴な指示を出す奴が多くなるんじゃないか?」


「Bランクぐらいまで上に上がるとギルドやその他の貴族に対しての信頼は重要な物よ。身勝手な指示を出し、それに対して他の同業者の恨みを買ってしまえば降格……最悪、除籍もあり得るわ」


「そ、それはぁ……中々バカな行動がし辛くなる状態だな」


それでも中には普段から傲慢で横暴な態度を取る冒険者も存在するが、それでもギルドから処罰を与えられるような真似をする物はBランク以下と比べればかなり少なくなる。


「でも、ゼルートの功績を知れば向こうから譲ってくれるのではないか?」


「ん~~~~、その辺りはどうなんだアレナ?」


「ど、どうでしょうね? 偶に勘違いした馬鹿が自分の功績を叫びながら自分に順番を譲れと言う奴がいるけれど、それは世間が知っていて認めて初めて通るかもしれない横暴ね」


「そうなのか。それなら俺の場合は無理だな」


世間が知っており、認めているなら自分の功績を使って順番を無視することが出来るかもしれない。

その考えに対してゼルートは速攻で自分は無理だと判断した。


「何故だ? ゼルートは実際に・・・・・・あぁ、なるほど。よく考えれば難しいというか、二つ目の部分が怪しいと思われるもの、か」


「そういう事よ。ゼルートが達成した偉業に関して噂は広まっているけど、実際にゼルートの姿を目にした人はそこまで多くは無いし、実際に見ても直ぐに納得は出来ないでしょう」


「アレナの言う通りだ。確かに待つのは面倒で退屈だけど、周りの印象を悪くしてまで入りたくは無いしな」


「ふむ、そうだな。それはもっともな事だ」


そんな事を話していると、一つの冒険者パーティーと貴族らしき男性と護衛の兵士達が言い争う声がゼルート達に聞こえて来た。


「世間知らずな坊ちゃんに教えてやるよ。Bランクの冒険者は男爵家と同等の権力を持ってるんだよ。だから坊ちゃんの親が幾ら凄くても、爵位を持っていないお前は全く偉く無いんだよ」


「そんなへ理屈が通るものか!!! 冒険者は冒険者らしく向こうの列に並び、さっさとそこをどけ!!!」


片方のBランク冒険者達が集まったBランクのパーティーは至って冷静だが、もう片方の貴族の子息は冒険者に馬鹿にされたと感じて頭が熱くなっている。


「あれは……どっちが悪いと思う?」


「さっきBランク以上の冒険者が得られる男爵家と同等の権力に関しては、こういった場では通用するものよ。その証拠にあの人たちの顔が知れてるかどうかは分からないけど、この列に並んでいる冒険者らしき人達はあの人たちに対して不満そうな顔はしてないでしょ」


「……言われてみればそうだな」


とりあえずそろそろ自分の番な訳だし、あの者達には関わらないでおこうと思ったゼルートだが、貴族の坊ちゃんの一言がトリガーとなった。


その結果、自ら首を突っ込んでしまう。

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