少年期[486]必要では無いからどうぞ
ゼルートの拳から放たれた水の激流はトロールの腕を貫き、胸までも綺麗に貫いた。
「あらよっと」
そしてその焦点が絞られた激流を一回転させ、ゆっくりと地面に着地する。
「これで、流石に再生は出来ないだろ」
徐々に……徐々にトロールの腕から、胸から血が流れだす。
そして遂には腕の一部が、円型に切断された心臓がズルリと地面に落ちた。
「ガ、ア……ァ・・・・・・」
「残りの魔力の残量から考えても、やっぱり再生出来なかったようだな」
まだ魔力の残量に余裕があれば話は別であり、斬られた切断部を即座に繋げることも可能だった。
しかしトロールが残していた残量は搾りカスの様なものであり、その量で再生は不可能。
「お疲れ様。って、あんまり疲れて無いわよね。あれだけバカみたいな戦い方をして息を切らしてないんだし」
「バカみたいな戦い方ってなんだよ。せめて常識外れにしてくれよ」
「……常識外れはいいのね」
ゼルートの返しに呆れた表情になりながらアレナはトロールの死体に目を向ける。
(……綺麗に切り抜かれてるわね。相変わらずゼルート攻撃は桁外れの威力ね。トロールはそのパワーと再生力に目が行きがちだけど、防御力だってそこそこ高い。それを難無く貫くなんて……魔法職専門の人が見れば卒倒しそうね)
トロールを一撃で倒すには、方法にもよるが単純な威力だけで倒すならば上級魔法レベルの攻撃魔法が必要になる。
上級魔法を扱える魔法使いはそう多くない……が、珍しいと言う程でも無い。
だが、ゼルートほど高速で威力が高い攻撃を放てる者はそれこそ数える程しかいない。
「それで……このトロールの死体は俺が貰っても良いのか?」
商人を護衛している冒険者とその商人に一応聞いておく。
断られるとは思っていないが、それでも一応確認する。
「お、俺達は勿論大丈夫だ。俺達だけじゃトロールを倒すなんて無理だからな」
「リーダーの言う通りだ。トロールだけじゃなくてオークの群れもいたんだ。万が一の奇跡なんて絶対に起こらないぜ」
「そうね。絶望的な状況から救ってくれたあなた達から何かを貰おうなんて思えないわ」
護衛の冒険者達は皆、自分達を窮地から脱してくれたゼルート達から何かを貰おうとは微塵も考えていない。
それは商人の者も同じであった。
「んじゃ、こいつは貰ってくよ」
一瞬でアイテムバッグの中に死体をしまうゼルート。
その様子を見てた冒険者と商人はトロールと遭遇した時以上にギョッとした表情になる。
「わ、若いのに随分良いアイテムバッグを持ってるんだな」
トロールの体はかなり面積があるので、アイテムバッグの中を大きく締めてしまう。
冒険者の中にはアイテムバッグやリングを倒した魔物の素材や魔石を入れる専用として扱う者もいる。
しかし、ゼルートの場合は全くそういった意図は無い。
「親が元冒険者だったからな。そこそこ良いアイテムバッグなんだ。あっ、そっちのオーク達の素材や魔石はそっちで分けてください」
「えっ、いやちょい待て! 確かに俺達も少しは倒したが、殆ど倒したのはお前の従魔や仲間だ。俺らが受け取るのは筋違いと言うか……なぁ?」
「だ、だな。命あるだけ儲けもんって感じだ」
護衛の冒険者達としては特に特に誰も大きな怪我を負う事無く、危機を脱せた事で十分だった。
しかしゼルートとしてはオークの死体は大量に持っているので特に必要には感じていない。
「いいよいいよ、オークの肉はたくさん持ってるから。別に魔石もそんな欲しい訳じゃ無いし」
「そ、そうか・・・・・・それなら、有難く貰うよ」
護衛の冒険者達も全くの無傷という訳では無いので、ゼルートからの提案は有難い内容だった。
ルウナ達も特にゼルートの言葉に否定は無く、自分達が倒した獲物なんだから自分達の物だという考えは無い。
特にルウナ達が倒した獲物はオーク。特に興味がある魔物でも無かった。
「んじゃ、お気をつけて」
用が済んだゼルート達は再び簡易トラックに乗って再び目的に向かっていく。
「あ、あれも魔法で出来る技術なのか?」
「さ、さぁ……良く解らんが、規格外だという事だけは解かる」
自分達が知らない技術を平然と使うゼルートはアレナの言う通り、規格外な存在という事だけは解った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます