少年期[485]限界はある
蹴りに対して蹴りを返し、パンチに対してパンチで返す。
その様な行動を何度も何度も繰り返すゼルート。
トロールが一方的に攻撃しているのだが、それでも全ての攻撃を同じ攻撃でゼルートから返されている。
攻撃力は若干ゼルートの方が上なので攻撃がぶつかる度にトロールは少しダメージを受ける。
しかしそのダメージは再生スキルによって瞬時に回復する。一見、両者ともノーダメージのまま時間だけが過ぎているように感じるが……実はそうではない。
ラームの様に相手から魔力を奪い取る術が無く、魔力を瞬間的に自己回復出来るスキルを持っていないトロールは傷を再生する度に魔力が削られていく。
「あ、あの坊主……マジでヤバいな。あの体格でトロールと殴り合えるなんて。見た目なんてレベルの前では意味無しってのは解かるが・・・・・・それでも相手はトロールだぞ」
腕力だけならばモンスターの中でも上位に食い込む実力の持ち主。
そして種族特有の再生スキルも持っており、戦闘職からすれば厄介な敵であることに変わりない。
「あなたの気持ちは解らなくないわ。でも……あれが悪獣を一人で倒した少年よ」
「は、ははは。あれを見せられたらその話も信じないとな」
「そ、そうね。トロールなんかと殴り合えるなんて、普通の冒険者じゃそうそう無理な芸当だし」
既にオーク達の討伐は護衛の冒険者とアレナ達によって倒されており、必ずゼルートが勝つだろうと解っているルウナは戦いを見ることなくラームと一緒にオークの解体を行っている。
当然、解体によって流れる血の匂いに惹かれてやってくる魔物はいるのだが、大きな轟音を鳴らしながら戦うゼルートとトロールにビビッて逃げてしまう。
「なんか……徐々にトロールの方が押されているような気がする」
「そうでしょうね。おそらく、トロールは再生のスキルを持っているのだからゼルートに攻撃を相殺された際に負った傷を癒せている。その傷の大きさによって再生に必要な魔力量は変わるでしょうけど、魔力を回復する術は持っていない」
「そ、そりゃそうだな。トロールが自然に魔力を回復する術を持っていたら……本気でゾッとする」
再生スキル持ちの魔物を倒す場合、どうにかして大ダメージを与えて少しでも魔力を消費させようとするのがセオリーな攻略方法。
最初から急所を狙えば良いのではと思うかもしれないが、再生スキル持ちの魔物は自分が攻撃を喰らってはいけない体の部分を本能的に理解している。
なので、そこまで知能が高い訳でもないトロールでも頭部と胸部への攻撃には敏感だ。
ただ、ゼルートが現在戦っているトロールに関しては、かなり再生スキルのレベルが高いので脳が破壊されても時間を掛ければ再生が可能。
そして数分間もの間、ゼルートとトロールの打ち合いは続いたが、魔力と同じようにスタミナも永遠に続くものでは無い。
「あらら、もうスタミナが尽きて来たか」
「……ッ……ッ……ッ!!!」
本来ならば長時間動けるのだが、ゼルートを強敵だと本能で理解したトロールは全力中の全力で攻撃をを繰り返していた。
その分だけスタミナを通常時よりも消費される。
そしてゼルートが浮かべる余裕の笑み、それがトロールにプレッシャーを与えており更にスタミナを削る。
「んじゃ、そろそろ終わりにしようか」
ゼルートが狙うのは勿論心臓。
スピードを一段階上げ、トロールの心臓目掛けて飛びあがる。
だが、ゼルートが次に繰り出す攻撃の個所を予測できたトロールは即座に心臓を隠すように両腕をクロスしてガードする。
腕には残った魔力を全て絞り出して纏う。
少しでも防御力を上げようとした結果だが……ゼルートに対しては無意味な足掻き。
「それぐらいの防御じゃ、俺の攻撃は防げ無いって」
右拳に水の魔力を纏ったゼルートは勢い良く拳を突き出す……拳がトロールの腕に届く前に。
ただ、ゼルートの拳からは範囲が一点に絞られた激流が飛び出していた。
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