少年期[484]トラックを止めて
ゼルートが操るトラックは軽快に道を進んで行く。
「……ッ、ゼルート」
「あぁ、見えてる」
前方だけは見えてるようにしている窓から魔物に襲われている様子を確認した三人。
「オークが複数にトロール・・・・・・結構イレギュラーな状況ね」
ランクDのオークが複数いる。
それであれば襲われている商人を守る冒険者達でも守り、討伐出来るだろう。
だが、オークの格上に当たるBランクのトロールを相手ではちょっと荷が重い。
「どうするの、ゼルート?」
「このまま見過ごすのはちょっとなぁ……とりあえずは助けよう。アレナは負傷している冒険者にあたってくれ」
「分かったわ」
トラックを止め、飛び出したゼルートとルウナはお互いに魔力の砲弾を拳で放つ。
「グボッ!!!???」
予想外の攻撃を意識外から受けたトロールの体は大きく揺らぐが、その体が地面に倒れることは無かった。
(俺とルウナの砲撃を喰らっても倒れないとは、流石の耐久力)
いきなり対峙していたトロールに攻撃が加えられたことに驚く護衛の冒険者達。
「遅れたが、助太刀はいるか?」
「助かる!!! 今は少しでも戦力が欲しい!!!」
「了解、なら負傷者は俺の仲間からポーションを貰ってくれ。後は残りのオークを頼む。んじゃ」
「あっ、ちょとまっ!!!」
護衛の冒険者の言葉を最後まで聞かず、ゼルートは身体強化のスキルを使ってトールへと突っ込む。
「安心しろ、あいつは見た目に関係無しに超強い。だからオークを倒すのに集中しろ」
「そ・・・・・・わ、分かった」
何かを言いかけた護衛の冒険者だが、ゼルートとトロールの右ストレートがぶつかり、お互いに体勢が崩れなかったことでルウナの言葉を納得出来た。
そして同じ商人を護衛している仲間を助ける小さなドラゴンやリザードマン、スライムを見てある噂を思い出した。
(そういえば、少し前にSランクの魔物である悪獣を倒したDランクの冒険者が、少年がいるとは聞いたけど……もしかしてあの子がそうなのか?)
男はその噂を正直二割程度しか信じていなかった。
討伐者が少年でしかもDランク。連れている従魔と一緒に倒した、それならばまだ信用出来るが……流れて来た噂や吟遊詩人達が歌う内容は一人で悪獣を倒したという内容。
おそらくこの噂を信じている者など絶対にいないだろうと、仲間である冒険者達も信じていない。
しかし、視界に映るゼルートの戦いぶりを見せられれば、噂や歌が全て本当かは分らないが少なくとも少年が普通では無い事が解る。
「結構なタフネスだな。良い感じの攻撃がそこそこ決まったと思ったんだが」
「グ、ゥ・・・・・・グガアアアアアッ!!!!!」
「ははっ、まだまだ戦う気満々だな。良いぜ、ちょっとテンション上がって来たし、付き合うぜ」
力はゼルートから見ても中々のものだが、スピードは流石にゼルートには敵わない。
それ故に、カウンターの要領でいくつか攻撃をモロに喰らってしまったが、トロールは弱った素振りを全く見せない。
(骨に罅が入った、もしくは折れた感触はあったんだが……あぁ、再生のスキルを持っているのか。それなら納得)
鑑定眼でトロールが持つスキルを視て、再生スキルを持っている事を確認したゼルートはトロールの動きに納得した。
スキルレベルも五とそこそこ高く、魔力さえ消費すればゼルートが加えた攻撃程度は大して時間を掛けずに治せる。
(こんな魔物が道に現れ、商人とその護衛を襲うとは・・・・・・アレナの言う通りイレギュラーな状況だな)
ゼルートがシーリアスから貰った地図には道中で遭遇するかもしれない魔物が大体ではあるが書かれていた。
その中で、現在の地点で現れる魔物の中にオークの名前はあったが、トロールの名前は無かった。
そして書かれてある複数の魔物のランクを考えても、トロールが出現する確率は限りなく低い……というかあり得ない。
だが、そんな事は今のゼルートに関係無かった。
「うし、力比べといこうか!!!!」
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