少年期[474]ラームがいなければ
「ルウナさん、少し前に起こった魔物の大討伐の内容を教えて貰っても良いですか?」
エレクトビーの巣を探す途中、ジーナはずっと知りたかったことをルウナに尋ねた。
ゼルート達が体験したダンジョンから溢れ出した魔物の大群の討伐戦。
それがどういった内容だったのか、ドーウルスに戻ってからゼルート達は何度もそれを尋ねられ、その度に大体こんな感じだったと話す。
それは既に吟遊詩人達によって歌になり、多くの街で語られている。
ただ、やはり人伝や歌で知るよりも、本人から聞くのでは変わってくる。
「別に構わないが……そこまで大したものでは無いぞ。単に襲い掛かってくる魔物の大群を倒しただけだ。ただ・・・・・・アシュラコングは強かった」
「アシュラコングっ!! Aランクモンスター……冒険者がおおよそ単体で倒せる魔物では無い。だが、現にあなたはこうして生きている」
「そう、確かに倒せた。しかしあれは私一人で得た勝利では無い」
相対したアシュラコングの姿、雰囲気を思い出す。
(確かにゼルートと出会ってから私は強くなった。しかしそれでも・・・・・・あのアシュラコングと一対一≪タイマン≫で倒せるイメージが浮かばない)
事実、ルウナがアシュラコングと戦った場合、重傷を負わせることは出来ても勝利することは出来ない。
良くて相打ちといったところ。
「ゼルートの従魔であるラーム。あいつがいなかったら危なかった」
「その……本当に強いんですか? 人の姿になれて喋れる魔物が他の個体と比べて特別だという事は解ります。ただ、やっぱりそれが元はスライムだとしても……やっぱり強いって中々思えないんですよね」
「馬鹿な事言うなジーナ。今まで俺達が会ったことが無いだけで、現にそこら辺のスライムよりもランクの高いスライム系の魔物は存在する」
エリエットの言う通り、BやCランクに該当するスライム系の魔物は存在する。
そして最近はあまり目撃情報が無いが、Aランクに該当する魔物もいた。
「でも、エリエットだってあのプルンプルンなスライムちゃんが自分より大きな魔物をボコボコにするところを想像出来る?」
「……確かに、イメージはしにくい。ただ、やはりその戦いを生で見せられれば納得せざるを得ない。それに、あのスライムが希少種のリザードマンや雷竜と対等に接しているんだ。なにかしら特殊な力を持っているのは事実だろう」
「良い考えだな、エリエット。そうだ、ラームが持つ力は特殊中の特殊。ただのスライム、そんなイメージをぶち壊すに相応しい力だ。というか、私はそもそもラームをスライムだと思っていない」
スライムの状態でスライムらしく戦う状況であっても、決して油断出来ないほど強い。
そしてその特殊な力を使えば、それはもはやスライムとは呼べ無い個体となる。
「リアルマジシャン、といったところか」
「リアルマジシャン、ですか……それは、嘘を現実に変えるという意味ですか?」
ロークの言葉にルウナはゆっくり、深く頷いた。
ラームの本当の力は、明らかにスライムのものでは無い。
真似っこ、なんて生易しい言葉に収まらない。
見た目だけならそんな虚仮脅しだろと思うかもしれない。マジシャンのトリックの様に種や仕掛けがあると思う者もいるだろう。
しかし、ラームの力に種も仕掛けも存在しない。
ラームが自身の力で得た勝利の特典と言えるだろう。
「ゴブリンの皮を被ったドラゴンという言葉がある。それはゼルートに相応しい言葉だと思っている。ただ、当たり前の話だがその言葉に該当するのはゼルートだけでは無い。ラームにも当てはまるという事だ。いや、ラームはスライムだからスライムの皮を被ったドラゴンでいいか」
「スライムの皮を被ったドラゴン・・・・・・そ、それを聞いた本当のドラゴンは怒ったりしませんか?」
魔物というピラミッドの頂点に立つ魔物。
人の言葉を話せずとも、理解する能力を持つ個体は多い。
「既にラルは認めている。自身に近い、もしくは同じ程の力を持つと。それに、例えその言葉を聞いて怒り狂い、ラームに襲い掛かったとしても結局そいつが後悔するだけだ」
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