少年期[437]本当に運が良かった

ライオネルがユニゾンマジックの効果で威力を増大させた咆哮を放つ前、ゼルートは他の魔物達を一気に片付けようと考えていた。


そして風魔法の身体強化魔法である、疾風を使った。

迅雷に疾風が重なり、疾風迅雷を身に纏ったゼルートの速さは並みの魔物では完全に捉えられない程の速さを有している。


疾風迅雷を身に纏った直後、強烈な殺気と魔力の波動を感じたゼルートは反射的にその場から全速力で離れた。

もし仮にゼルートが素の状態であれば風水の咆哮をガードするしか選択肢は無く、迅雷だけの状態では直撃を避けられても無傷では済まなかった。


風水の咆哮を躱すことに成功し、直ぐに攻撃が飛んできた方向に向かって駆け出した。

その際に殺気は完全に消しており、少しでも気付かれにくい状態でライオネルへと近づく。


姿が見え、勝利の雄叫びを上げているライオネルを発見したゼルートは先程までの自分と少し重なっているように見えた。


(別に勝利の雄叫びなんて上げてなかったけど、油断していたのは確かだ)


もし迅雷に疾風を重ねていなかったらと思うとゾッとする。

それ程までに風水の咆哮の威力は高かった。


「流石に危なかったぞ。ナイスな不意打ちだ」


勝利の余韻に酔っていたライオネルは右耳から聞こえた人の言葉にギョッとした。

何故、自分の最強最大最速の攻撃を喰らった者が生きているのか、自分の右隣にいるのか。


ただ直ぐに理解した。理解したくなくても理解してしまった。


この人間は自分の攻撃を上回る速度で避け、自分の元までやって来たのだと。


獅子の体に翼を持つライオネルは直ぐに空へ逃げようとする。

しかし思うように体が動かず、地面に押し付けられる。


「今のは空に飛ぼうとせずに後方へ下がった方が良かったかもしれないな。まっ、どっちにしろ逃がさないけど」


重力魔法により、ライオネルに五倍の重力を掛けた事で動きがピタリと止まった。


「轟雷断刀」


ゼルートが体に纏う風雷の魔力が全て右腕に集中し、一つの剣と成った。

振り下ろされた手刀はライオネルが次の行動を起こす間もなく首を切断し、重力魔法の影響で頭は地面にめり込んだ。


「・・・・・・はぁーーーーー、本気でヤバかった」


枷を三つ外し、迅雷を使っている状態であっても危なかった。


「直撃してたら生きてはいただろうが、直ぐにポーションを飲むか回復魔法を使わなかったら結構危機的状況になっただろうな」


こいつだけは自分が貰っても良いよなと思ったゼルートはアイテムリングにライオネルの死体を入れ、次の戦場へと向かった。



「そらッ!!! どうしたどうした!!!! その程度かッーーーー!!!!」


『そうだぞそうだぞ!!! この程度か!!!! 物足りないぞ!!!』


魔物の大群と戦闘中のルウナとラームは絶賛ハイテンション状態だった。


自身達を殺しに来る魔物達に罵倒するも、その表情はとても嬉しそうなものになっていた。

殴って蹴って投げて折って貫く。

それを何度も繰り返すルウナの体は返り血に染まっていた。


だがそれを全く気にする事は無くルウナは攻撃を繰り返す。

戦いが始まってから十分は経とうとしている。

一対一では乱戦でノンストップで一対多数で戦っていれば普通はスタミナが切れるのだが、獣人族のルウナは他の種族とは訳が違う。


しかしそんな獣人族であってもスタミナが切れてしまう程の動きをし続けているルウナ。

それでもランナーズハイな状態になっているルウナにそんな事は関係無かった。


何よりもサポートに関しては絶対の信頼を寄せられると確信した仲間が直ぐ傍にいる。

無茶しない理由が無い。


そんなルウナの後ろでルウナのサポートをしつつ自身も暴れ回るラームもルウナとの戦いやすさを実感していた。

野性的な勘でルウナはラームがどの様な攻撃をするのか察知し、自然と連携が取れている。


そんなルウナとラームの快進撃を止められる魔物は中々現れず、魔物達の死体が次々と増えていく。


「むっ、中々タフそうな奴が現れたな」


魔物達の後方から巨大な影が四つも現れた。

その大きさから完全なパワータイプだと判断したルウナとラーム。


それは間違ってはいない判断だったが、その影と自分達との距離に小さな油断が生まれた。

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