少年期[430]プロだろ、お前

「ふっ、ざ・・・・・・あ、がッ、は!! ん、のぉ、ぉ・・・・・・」


「喋るな!!! 下手に動いたら悪化するぞ!!」


男の仲間が駆け寄り、直ぐにポーションを飲ませる。


男の状態は決して安心できるものでは無いと思った仲間は、そう簡単に手に入れられる物では無いポーションを使った。


(見た目が子供だからといって完全に嘗めていた。ただ、それでもこいつが全く反応出来ないスピードで動くとは。あの歳でどこまで完成されているんだ!?)


仲間と余裕そうな表情で話すゼルートに男の仲間を畏怖が込められた視線を向ける。


甘やかされて強くなった者の動きでは無く、明らかに自分たち以上の修羅場を潜り抜けて得た力。

目の前で実力を見ても見苦しく言い訳する程愚かでは無い。


しかし骨が修復され、臓器や血管も元通りになった男は直ぐ様立ち上がってゼルートに詰め寄ろうとした。


「ガキッイイイイ!!! もう一度俺と戦えええええッ!!!!」


「馬鹿ッ、止めろ!!! あの子供の実力が本物だという事は、身に染みて解っただろ!!!!」


男の仲間が総動員で動きを止めようとする。


しかし男はパワータイプであり、身体強化系のスキルも有しているため、徐々に徐々に前へ進む。

そんな男に向けられる視線は二種類。


一撃で瞬殺されたくせに負けを認めない惨めな冒険者。


もう一つは男がもう一度ゼルートに挑もうとするプライドが理解出来る。


「ゼルート、あれどうするの?」


「もう一度戦ってやるのか?」


「まさか。本当は俺との実力差ぐらい本能では解ってるだろ」


そう言いながらもゼルートはゆっくりと、一歩ずつ近づいて行く。


そして男から少し離れた場所に立ち、面と向かって立つ。


「おい、ここに呼ばれてるって事は、ギルドから冒険者のプロだって認められてるって事だろ。そんな奴が、見た目のせいで油断していた、だから俺は負けた訳じゃ無いとか如何にもルーキーが言いそうなセリフを吐く訳無いよな」


放たれる威圧感。


人によっては虎、象、鰐、ゴリラ、悪魔、竜の幻影が見える。

それ程までに本気の威圧感を放ったゼルートに、実力を理解していた者達も思わず体を震えた。


「これ以上、ルーキーを失望させんなよ」


それだけ言うとゼルートはアレナ達の元へと戻った。

そして全員会議室へと戻り、討伐の内容が話される。


とは言っても人と人との戦争の様に腹の探り合いをする必要は無い。


冒険者達はお互いの短所が補える同士とパーティーを組む。

ただし大規模な一撃必殺が使える者だけはまた別で隊を組むことになる。


そして今回の大規模討伐に参加するのは冒険者だけでは無く、領主がお抱えの騎士団も参加する。

冒険者達の編成が決まったところで、騎士団が入って来て最終的な打ち合わせが行われる。


その中でゼルートに絡もうとする者はいなかったが、聞こえるか聞こえないか程度の声で陰口をたたく者は何人もいた。

しかしそれを騎士団長が一喝。


「お前ら。ボコボコにされて女を抱けない体にされたくなかったらそれ以上騒ぐな」


騎士団長はゼルートの三対一の決闘を知っており、その内容と顛末も知っている。

なので騎士達が不必要な怪我を負う前に釘を刺した。


騎士達の中にはまだ納得できていない者も多いが、今この場で文句を言えばそうなるか解らないほど馬鹿では無いので、ゼルートの陰口を叩かなくなった。


そして最終的にゼルートとルウナはラルとラームと行動し、アレナとゲイルはグレイス達と一緒に行動することになった。


本来ならば他のパーティーとも組み合わせるのだが、ギルドマスターがゼルートの性格を知っているので敢えて面識のあるグレイス達以外のパーティーとは組ませなかった。

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