少年期[429]それぐらい使えよ

「こうなるとは思ってたけど、本当になってしまったわね」


「もはやこの一連の流れがあるのに私は違和感を感じなくなった」


「なっはっはっは、ゼルートの奴は毎回こんな面倒事に巻き込まれてるのか。まっ、あいつの場合は強さが外見に釣り合っていないから仕方ないけどな」


「ゼルート君はこれからどんどん成長するんだからその内あんな馬鹿達に絡まれることも少なくなる筈です」


ゼルートの体はそこまで大きくは無いが、それでも直実に少しづずつ成長はしているので、将来的には平均よりは高い身長になる。


しかし容姿も大人になったとしても、厳つい風貌になる事は無いので今回の様に実力を読めない馬鹿が絡む可能性がゼロとは言えない。


「相手の若手もそこそこ経験を積んだ実力者だろうが、ゼルート相手に何分持つ事か」


「私はせいぜい一分程かと思います」


「ゼルートがどの様に終わらせようと考えているのかにもよるが、もしかしたら三十秒もかからず終わるかもしれないぞ」


人前で実力を隠すのは諦めようと思っているゼルートがその様に決着を着けるのか。


ルウナは以前までの様に時間を掛けて倒すような真似はしないと思い、内心では三十秒よりも短く終わるかもしれないと思っていた。


そんな四人の会話は周囲に聞こえており、ゼルートの実力が読めていない冒険者の半分は身内贔屓をし過ぎだと思っていたが、残りの大半はもしかしたら見た目に似合わずとんでもない実力者なのではと疑い始めた。


戦いを見守る冒険者達の中では大々的な賭けは行われていないが、身内同士での賭けは行われていた。


「二人共準備は良いな」


開始位置に着いた二人の準備は既に整っており、ゼルートに絡んだ男は完全に潰す気でいた。

遊んだり容赦するつもりは無い。圧倒的な実力差で身の程を教えてやる。


「ああ、いつでも大丈夫だ」


「こっちも大丈夫ですよ」


ゼルートは腰に付けている長剣を外しており、戦う武器は己の五体で十分だという意思を表している。


(本当にムカつくガキだな。年齢の割に実力があるのかもしれないが、俺にとっては中途半端な実力だ)


現実をその身に刻む。

そう決めて男は槍を構える。


「始め!!!!」


ギルドマスターによる開始の合図が発せられると同時に男はゼルートに突進し、槍を数度突いて態勢を崩したところで柄を腹にぶち込んでやると一連の動きを決めていた。


「嘗めんのも大概にしろや」


自身の脚が駆けだす前に懐から声が聞こえた。

その声には明確な怒気が含まれていた。


気付けば槍はずらされ、自身の胴体が隙だらけになっている。


「ふんッ!!!!!!」


崩拳を使った訳では無く、唯の正拳中段突き。


その一撃で、男の胸骨と肋骨は砕け、開始位置よりはるか後方に吹き飛ばされた。


「おわっ!!??」


「えっ、ちょっ、何が起きた!!??」


いきなり自分達の方に飛んできた男を咄嗟の反応で受け止めた冒険者達は何が起きたのか解らなかったが、横から見ていた冒険者達にはある程度見えていた。


「ギルドマスター、この勝負、俺の勝ちだろ?」


「うむ、その通りじゃな。勝者はゼルートだ!!!!」


開始五秒も経たずに決着。

アレナとルウナの予想はどちらも外れていたが、それでもこの結果に驚きはしなかった。


「ゼルート相手に身体強化も使わずに挑むなんて、実力差を思い知らせてやる!!! みたいな表情をしてたくせに油断し過ぎでしょ」


「そう思っていたからこその油断じゃないのか? まぁ、ゼルートの実力を考えればあの男程度では本気を出したとしても大して耐えられはしないだろう」


周囲の冒険者達の中でジャイアントキリングに期待し、ゼルートの勝ちに賭けていた冒険者達は素直にこの結果に喜んでたが、他の者達は目の前の結果に反応出来ずにいた。

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