少年期[376]入る事に興味は無い

(こいつら・・・・・・どうしてこんなところで声を掛けてくるんだよ。周囲の人間とアレナの反応を見る限り、王都の中ではそこそこ大きなクランなんだろう。そんな奴らがこんな大勢の人がいる場所で声を掛けてきたら否が応でも目立つだろ)


相手の都合を全く考えないデーバックの行動にゼルートは普通に腹が立っていた。


「クランへの勧誘ねぇ・・・・・・まずなんで俺らみたいなDランクの冒険者をクランに誘うんだ?」


「例えランクが低くても、才能や伸びしろがあると感じれば早い段階でスカウトするのは特に珍しくないよ。それで君達を勧誘した理由についてだね。少し前にドーウルスの街から少し離れたところでオークとゴブリンの大群が発見され、それに対して大規模の討伐が行われた」


王都からドーウルスまでにかなりの距離が離れているが、それぐらいの情報は出来事が起こってからの日数を考えればその情報が伝わっていても可笑しくない。


「その討伐での立役者がDランクの君達だ。なんでもオークキングを単独で倒したとか」


デーバックの発言に周囲の騒がしさが加速する。

そしてゼルートの眉間にますます皺が寄る。


「そんな君を放っておくクランはそうそういないと思うね」


ドーウルスでは全く勧誘された事が無いゼルートだが、それにはゼルートの容赦のなさなどが広まっているのでクラン内の揉め事を避ける為に誘うクランがいない状態になっていた。


「・・・・・・まぁ、仮にその情報が正しかったとしよう。ただ、俺があんたらのクランに入る理由にはならない。誘ってくれたことは光栄な事なんだろうが、断らせて貰う」


ゼルートとデーバックの会話を食事の手を止めて聞いていた客達はまさかの返答に驚きを隠せず、口をあんぐりと空けてフォークを落としてしまう者もいた。


だがアレナとルウナだけはその返答が当たり前とだと解っているため、特に表情に変化は無くウンウンと頷いている。


「そうか・・・・・・理由を聞いても良いかな?」


「上からあれこれ指示を受けたくない、おそらく同年代や年上の連中と仲良くできない。というか・・・・・・そもそもクランに興味は無い」


「大手のクランに入れば色々と場面場面で有利になる事があったとしても?」


ハッキリとクランには入らない、興味が無いと伝えたのにも関わらず、まだ勧誘を諦めないデーバックに対してゼルートは苛立ちを募らせながらもそれを敵意や殺気には変えずに我慢する。


「だから言っただろ。まだ冒険者になったばかりのルーキーだとしてもそんな事は知ってる。それを踏まえて興味が無いって言ったんだよ」


「興味が無い、か。ふぅーーーーー・・・・・・分った。これ以上勧誘するのは止めるよ」


「そうか。次狙うならもう少し欲がある奴を狙えよ。あと・・・・・・俺に権力が無いと勘違いするなよ」


威圧感を出し、最後だけ声量を小さくしてデーバックだけに聞こえる様に伝える。

自身だけに向けられた明確な威圧にデーバックは思わず体を震わせてしまう。

その瞬間に自分の物差しで測っていた目の前の少年が噂通り、ランクに当てはまらない規格外な冒険者なのだと認識させられる。


「んじゃ帰るぞアレナ、ルウナ」


席から立ち上がり、会計を済ませたゼルート達は何事も無かったような表情で店から出て行く。

ゼルートが店から出て行った後、デーバックの後ろにいたクランのメンバーが不満を隠さない表情のまま話しかける。


「なんて生意気なルーキーなんでしょうか!!! 私には態度だけがデカく、後ろの二人の力を良いように利用して自分まで強くなっているようにしか見えません!!!!」


「それは違うよ、フーラ」


「えっ、えっと・・・・・・私にはあの子供がオークキングを単独で倒せる様には、まっっったく見えませんでしたけど、そうでは無いという事ですか?」


フーラはクラン内で信頼でき、尊敬している先輩であるデーバックから自身の考えを否定され、その理由が全く解らなかった。


「そういう事だよ。最後に彼は僕だけに伝わる威圧感を出して帰った。狙った対象だけに威圧感や敵意に殺意を与える。それが出来るだけで彼の力量が解る。それに彼は思っていたよりも大人なようだ」


「見た目は子供っすけど態度がという大人ってっすか」


豹の獣人の青年はデーバック何を言っているのかちょっと解らなかった。

隣に未だ不満顔の人族のフーラも同様な考え。


「態度は・・・・・・ちょっと違うかもしれないね。ただ、彼は最後まで雰囲気を崩さなかった。多分、彼は僕に勧誘された事自体を鬱陶しく思っていたようだ。にも関わらず感じとれる者ならば感じ取れる威圧感を出そうとしなかった」


不快に思い、感じている事に対してある程度の強者ならば体から自然と魔力や不快感が混じった威圧が出てしまう。

それをゼルートは会話が終わるまで我慢し続けていた。


「個人的には、あの歳であの域に達するまでに潜った修羅場が気になるところだけど、あまり関わろうとすると余計な怒りを買うかもしれないから諦めよう」


既に食事を終えていたデーバック達も会計を済ませてから店を出た。

デーバックは面白い物を見つけた少年の様な顔をしていたが、フーラだけはゼルートのデーバックに対する態度に納得が出来ず、クランハウスに着いてからも不機嫌な表情が変わる事は無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る