少年期[329]金と時間が掛かる
ギルドへとやって来た三人は訓練場へ足を運び、摸擬戦を始めた。
デックとソンはゼルートが自分達より格上だと認識しているため、遠慮無く攻撃を行う。
ハンマーを上から叩き付け、横に薙ぎ払う。持ち手の石突で突きを繰り出す。
メイスで縦横無尽に振り回し、素手による攻撃を大盾でなんとか防ぎ、地面をメイスで弾いてゼルートの視界を潰そうとする。
そんな躊躇なく攻撃を繰り出す二人にゼルートは攻撃を紙一重で得なく明確に躱し、受け流して徒手空拳で反撃する。
攻防の中でゼルートは二人に感じた事を随時アドバイスする。
アドバイスを受けたその場で出来そうな事なら自身の動きを修正し、それが無理そうなら頭の中に残して戦い続ける。
一対一の戦いを交互に繰り返し、三十分程経ったところで一旦摸擬戦をやめる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・いやーーーー、本当に強えぇなゼルートは」
「一応子供の頃から時間があれば鍛えて魔物と戦っての日々だったからな」
ゼルートは貴族の息子ではあったが、次男であるため覚える事は最低限の事で済む。
長男が未来の領主として覚えなければいけない内容もゼルートは覚えずとも構わない。
「レベルの差によるものもあるだろうが、一番は経験値の差といったところか。ゼルートとしては戦っている最中に考えずともどう体を動かせば良いのか解っているという感じなのか?」
「いや、それはどうだろうな。普段は次どんな攻撃を行うかとか考えていると思う。けど乱戦の時はもしかしたらあまり考えずに攻撃を繰り出してるかもしれないな」
どうすれば目的の素材を傷つけずに済むのか、どこまで追い込めば相手の真価が解るのか。そこを攻撃すれば相手の動きを止める事が出来るのか。
考えて攻撃する事は多々ある。
しかし、ゲイル達と摸擬戦等をしていた時はそういった考えはしていなかったかもしれないとゼルートは過去を思い出す。
(相手が強く、自分と同等かそれ以上の実力を持っている場合に限って考えるよりも速く体が動くのかもしれないな)
理屈では無く、本能が次のどういった動けば良いのか体に命令する。
本気で戦っているゼルートの状態はそれに近しいものになっている。
「ただ、二人共何かしらの遠距離攻撃は持っていた方が良いかもしれないかな」
「簡単に言ってくれるな。魔法の才能が有るかどうかは分らないが、それを学ぶだけの金や時間がなぁ・・・・・・そんな金があるんだったら良い女を抱きたい」
「デックと理由が同じ訳では無いが、それだけの金があるなら別の事に使うだろう」
二人が魔法を学ぶ理由に金が出て来ると分り、魔法を使う冒険者は基本的に同業者に只で教える事は無い。
利益なしに自分の技を教える冒険者はクランを組織する冒険者等しかいない。
それ以外は魔法を学ぶ学校に入るしか術は無いのだが、まだ中堅に届かないデックとソンからすれば馬鹿みたいに入学費と授業料が高い。
「そっか・・・・・・なら、一番は投擲だ」
「投擲なぁ、それは基本的にヒルナの専門なんだよな。けど、一理ある方法ではある」
「そうだな。そういえば、体術のスキルに遠距離の技があると聞いたんだが、ゼルートは知っているか?」
「体術のスキルか。衝撃波、遠当て、斬脚があまりスキルレベルを上げずに覚えられた技だった筈」
体術のスキルのレベルもそこそこな高さまで上げているゼルートだが、覚えられる技は殆ど魔力で代用しているため、使った事があまり無かった。
「一応体術スキルは持っているけど、あまりレベルは上げていなかったからな。それに俺のメイン武器と体術スキルは相性がなぁ・・・・・・いや、ぐだぐだ言ってても始まらねぇ。体術のスキルレベルを地道に上げてくか」
見た目はチャラく、中身もチャラい。そんなイメージをデックに持っていたゼルートだが、中々に芯が有るのだと解り、無意識に笑っていた。
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