少年期[311]整備しろよ

翌日、ゼルート達は再び森の中に入りサーベルタイガーを探す。

しかし二時間程森の奥に進み続けてもサーベルタイガーは見つからない。


「・・・・・・見つからないな」


「そうね。魔物は度々襲い掛かって来るけど、サーベルタイガーは来ないわね」


「ゲイル達も漏れ出す強さを抑えているから、襲ってきても可笑しくは無いと思うんだがな」


現にサーベルタイガー以外の魔物はゼルート達に襲い掛かって来る。

中には当然サーベルタイガーよりランクが低い魔物もいる。


だからこそ、サーベルタイガーだけ襲い掛かって来ていないのが疑問に感じていた。


「この森のどこにサーベルタイガーがいるって正確な場所は分らないから、地道に探していく以外の方法は無いだろ」


「それもそう・・・・・・ゼルート、右斜め奥から戦いの声と音が聞こえるぞ」


「・・・・・・ルウナさんの言う通りですね。声からしておそらく人対魔物かと」


聴覚強化のスキルを使い、ルウナから伝えられた方向にゼルートは意識を向ける。


「そうみたいだな。・・・・・・一応近づいてみるか」


「魔物と戦っている人達が負けそうになったら助けるんですかゼルート様?」


「いや、今回は違う。あーーーー、でも俺の予想が外れていたそういう流れになるか」


「考えありって事ね」


人と魔物が戦っている。それは何ら珍しい事ではないが、それでも森の奥でそういった状況が起こっているなら、確率は低くても、自分の予想が当たっている可能性はあるとゼルートは判断した。


そして戦いの現場に向かい、両者に気付かれない様に気配を隠し、こっそりと戦いの様子を除く。


「・・・・・・アレナ、あの鹿の魔物と戦っている奴らは冒険者に見えるか?」


「ゼルート、流石に私はまだ目が耄碌する歳じゃないのよ。普通に考えてあれは冒険者、ましてや傭兵でもないわ」


ゼルート達の視線の先で魔物と戦っている見ただけで分かる盗賊だった。


盗賊だと判断した理由は一つ、武器や防具の整備が碌に行われていない。

冒険者や傭兵に騎士や兵士であろうと、自身の命を預ける道具の手入れを怠る事は無い。


それは常時乱暴な態度を取っている冒険者達でも大半は戦いが終われば武器に手入れを行っている。


「それでも、戦い方は常時森で戦っているお陰で随分と様になっていますね」


「だな。誰かに教えて貰ったとかそういうのじゃなく、自分達で覚えざるを得なかったんだろうな」


戦いが続く事二分、盗賊達がようやく鹿の魔物を倒し終える。


「っし、ようやく倒し終えたぜ!!」


「結構手間がかかったが、こんだけデカい肉があればあのファースも満足するだろ」


「だな! しっかしいきなり大きくなったよなファースの奴。まぁそのお陰でそんじょそこらの護衛には負ける事は無くなったし、これぐらいの食費なんて安いもんだろ」


「違いねぇ!! 取りあえずとっととアジトに持って帰ろうぜ!!!」


盗賊達は鹿の魔物を担ぎ、その場から移動する。

そこでゼルート達は直ぐに動き出さず、盗賊達と一定の距離が開いてから尾行を開始する。


「ファースってのはサーベルタイガーの名前ってことで合ってるだろう」


「でしょう。しかしいきなり大きくなったという言葉が気になりますね。私はおそらく上位種へと変化したと考えますが、ゼルート様はどう思いますか?」


「ゲイルの言う通り、上位種に変化・・・・・・いや、進化っていった方が適切か? 取りあえず通常のサーベルタイガーより強くなった事に変わりはない筈だ」


言葉を言い終えてからゼルートはルウナ、ゲイル、ラルの方に顔を向ける。


「・・・・・・うん、お前らが殺る気満々なのは分かるが、誰がサーベルタイガーの上位種と戦うかは決めておけよ」


三人はゼルートの言葉にうなずいた後、盗賊達に気付かれない小さな声で誰がサーベルタイガーの上位種と戦うかを話し合う。


「取りあえず俺達は盗賊達に始末って事で」


「了解、分りやすくて良い内容ね」


「頑張ってどんどん殺すね」

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