少年期[304]崩れる常識

「戦いの最中に邪魔するね~~~~!!!」


緊張感のない声を出しながらラームは一体のバインドキャットに体当たりをぶちかます。

ラームの体当たりを喰らったバインドキャットは側方に吹き飛ばされ、木に激突して地面に倒れ伏した。


「ねぇねぇ、このバインドキャット達は僕が貰っても良いかな?」


「す、スライムが喋ったああああ!!!???」


「スライムって喋る魔物だったっけ!?」


「そ、そんなの知らねぇよ!!!」


「ど、どうしたら良いんだ!!??」


バインドキャットと戦っていた冒険者達はいきなり目の前の魔物が吹き飛ばされた事にも驚いたが、魔物であるスライムが人の言葉を喋った事の方が衝撃的だった。

そのため、この現状にどう対応して良いのか解らずあたふたしている。


「僕の話聞いてる? 君達じゃ勝て無さそうだから僕がバインドキャットの相手をするね」


魔物の中で最低ランクに位置する魔物であるスライムに、お前では目の前の魔物に勝てないと言われた冒険者は本能的に言い返そうとしたが、仲間の一人がそれを抑えてラームに助けを求める。


「お、お願いします!! 素材や魔石はそちらに譲るので助けてください!!」


「りょ~~~か~~~~い。いっくよーーーーーー!!!」


ラームは自身の体から幾つもの触手を生み出し、バインドキャットに向かって攻撃を開始する。

本来のスライムであればラームの様な攻撃方法を覚えたとしても、バインドキャットの速さには到底追い付く事が出来ない。


ただ明らかに普通のスライムとは性能が違い過ぎるラームにとって、バインドキャットの動きを捕らえる事など訳は無く、戦いを静観していた一体のバインドキャットを残して全員がラームの触手によって体に大きな穴を空けられた。


大きな風穴を開けられた事で血が一気に流れだし、意識が朦朧となり、保てなくなったバインドキャット達はその場で力なく倒れた。


「・・・・・・う、嘘でしょ。あれだけいたバインドキャットが、一瞬で」


「ね、ねぇ。触手の動き見えた?」


「いや、殆ど見えなかった。しっかりと動いたって分った時には、既にバインドキャットの体を貫いてたから」


「なぁ・・・・・・あれって本当にスライムなのか?」


ラームの言葉に言い返そうとした少年は目の前で起こったあまりにもあり得ない光景に、ラームが見た目通りのスライムだと信じられなかった。


ただしラームにとって、バインドキャットが自分の攻撃を避けられない事は当たり前だった。

それよりも奥で静観していたバインドキャットが逃げなかった事を不思議に思う。


(なんで僕が他のバインドキャットを攻撃している間に逃げなかったのかな? まぁ、逃げようとしたら後ろからブスッと刺すつもりだったけど。逃げなかったのかこっちとしては好都合だったんだし、良しとしよう)


事実は静観していたバインドキャットが逃げようと行動を起こす前に他のバインドキャットを殺したため、脳裏に明確な死がこびり付いて動く事が出来ないでいた。


それでもこの現状を何とかしようと、土魔法を発動して岩の弾丸を放とうとする。


「そうはさせないよ!」


しかしバインドキャットが魔法を発動しようとしている事に気が付いたラームは、バインドキャットがロックバレットを発動する前に水の弾丸を放った。


魔法を発動しようと体を動かせない状態でラームの攻撃が躱せる訳も無く、あっけなくバインドキャットの額をアクアバレットが貫いた。


「・・・・・・よし、これで全部のバインドキャットを倒し終えたね。怪我は大丈夫かい?」


「は、はい。ポーションを使ったので大丈夫です!!」


「それは良かったね。バインドキャットが集団でいると結構厄介だからね」


今でこそ集団でいようが瞬殺できるが、昔は何度も拘束された苦い思い出がラームにはある。


「お疲れさん。本当に瞬で終わったな」

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