少年期[305]遠慮するな

「戦闘時間は・・・・・・合計で十秒あるかないかってところか」


「あ、あの。君は一体・・・・・・」


「俺か? 俺はお前達と同じ冒険者だ。名前はゼルート、ちなみにランクはDだ」


ゼルートの軽い自己紹介を訊いた四人の冒険者は、バインドキャットを殆ど時間を掛けずに倒した時と同じくらい驚いた表情になっていた。


「う、嘘でしょ? だ、だって、君私達よりも年下よね」


「多分そうだろうな。年齢は十二だ」


「十二って、冒険者登録が出来る基準年齢じゃねぇか。流石にいくら何でもお前がDランクだってのは嘘だろ」


冒険者登録が出来る年齢は十二歳以上となっているが、自身の年齢をサバ読んでまだ十二歳以下なのにも関わらず登録する者もいる。


ただし暗黙の了解的なルールがあり、余りにも年齢が低すぎる場合を除いて十二歳以下の年齢であっても冒険者登録を了承している。


「そんな事を言われてもなぁ・・・・・・ほれ」


これが証拠だと、ゼルートは四人に自身のギルドカードを見せる。


「・・・・・・ほ、本当にDランクの冒険者、なのね」


「これで俺がDランクの冒険者だってのは分ってくれたな。あと、このスライム、ラームは俺の従魔だ」


こっちにこいと手招きをするゼルートにラームは勢いよく飛びつく。


「「「「・・・・・・嘘だろ(でしょ)!!!???」」」」


本日一番の驚きの表情と声を上げる四人。

ラームが登場した後にゼルートが出て来た事を考えれば予測出来なくはないのだが、それでも四人は目の前で起こった事実や例外とも言える事例の連続でそんな事を予想している暇は無かった。


「嘘じゃねぇよ。なぁ、ラーム?」


「うん!! 僕はご主人様の従魔だよ!!」


自分の意思をはっきりと喋る事が出来るラームの言葉を聞いて四人は目の前の事実に対して無理やり納得する。


「そ、それで、Dランクの君が何故このような場所にいるんだい?」


「討伐依頼の内容の魔物がこの森にいるって情報を聞いてな。ただ、お前の表情を見る限りもっと奥に進まなきゃいけないみたいだな」


「ち、ちなみにその討伐依頼の魔物はどんな魔物なの?」


今回の依頼内容は特に隠す必要が無いため、ゼルートは四人に討伐する魔物の名前を話す。


「サーベルタイガーって魔物を探してるんだ」


「サーベルタイガー・・・・・・って、確かCランクの魔物じゃない。た、確かに森の奥に行けばいるかもしれないけど、幾らそのスライム、ラーム? が強くてもあなたとだけじゃ」


「おいおい、別に俺とラームだけじゃないぞ。出て来いよ」


周囲の木に隠れて四人の冒険者とゼルートの様子を見ていた四人が姿をみせる。


「え!! ど、どこに!?」


「お前ら、無意識にかどうか知らないけど、気配遮断をのスキルを使ってただろ」


だからかと、ゼルートは四人が全くアレナ達の気配に気付かなかった理由を理解する。


「あなたとラームだけの方が面白そうな会話になると思ったのよ」


「私も少し思ったが、何と言うか・・・・・・結果いつも通りといった会話だったな」


「たく。まぁいいや。こいつらは俺の仲間だ。俺とラームを入れて計六。これだけいればサーベルタイガーを倒すのに十分な戦力だと思わないか?」


十分どころか過剰なほどの戦力だ。


「た、確かにそうかもしれねぇな」


「だろ。ところでお前らはバインドキャットの討伐依頼を受けてたのか?」


「ええ、バインドキャットを三匹討伐する依頼内容だったの。ただ想定以上の群れと遭遇してしまって」


自身の才能とスキルが無ければ自分も同じような心境になるだろうとゼルートは四人に同情する。


(十数のバインドキャットに遭遇なんて、低ランクの冒険者からすれば悪夢以外のなんでもないよな)


中には少し通常の個体とはバインドキャットもいたため、四人の冒険者達が先程までの現状を打破するのは外部からの干渉を除けば、完全に無理な話だった。


「なんなら三体分のバインドキャットを渡そうか?」


「え!? いや、その、それは確かに有難い話だけど、命を助けて貰っておいてそこまでフォローして貰うのは・・・・・・」


「サーシャの言う通りだ。多数のバインドキャットから助けてくれたのは感謝する。けど、その上死体まで譲り受けるのは流石に・・・・・・」


「別に俺は気にしないし、ラームも別に良いよな?」


「うん! バインドキャットは美味しくないからね」


スライムは基本的に魔物や動物の死体を熔かして食べるので何でも食べられるのだが、ゼルートのせいでで舌が肥えてしまった今のラームはバインドキャットを進んで食べようとは思わない。


「それに三体のバインドキャットと戦うなら多分お前達でも勝てただろ? それにランクが低いと依頼を一回失敗するだけで結構苦しくなる筈だ。だから遠慮するな」


「・・・・・・分かりました。今日のところは君とそのスライム・・・・・・ラームの優しさに甘えさせてもらうよ」


ゼルートの言葉通り一回依頼を失敗してしまうと生活が苦しくなるの事実な為、四人は邪魔なプライドは捨ててゼルートから三体のバインドキャットを譲り受けた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る