少年期[298]後三手
「こっからは俺のターンだ」
女の攻撃を避ける事をやめ、ゼルートはこの摸擬戦中に初めて攻勢に出る。
一気にギアを上げて女との距離詰め、腹に掌を当てる。
「はっ!!!」
「がはっ!!!???」
体に当ててからの衝撃波。拳を振り抜いてはおらず、途中で引いている。
それでも女にとって高威力な攻撃に変わりは無く、ふわっと宙を浮いて後方へ吹き飛ばされる。
「がはっ、がはっ、はぁはぁはぁ・・・・・・い、今の攻撃はいったい」
「おいおい、戦いの最中なのに随分と余裕そうだな」
女が吹き飛ばされ、視界が不安定になっている隙に視界外へとゼルートは潜り込んでいた。
「いつの間にっ!!!」
「だーかーらー、口より体を動かせ、よ!!」
足の甲を体に当て、力任せに蹴り上げる。
突然の浮遊感。女が今自分は先程と同じく宙に浮いていると感じるまで数秒程時間が掛かった。
しかし宙に蹴り上げられたとは言っても、今回の攻撃に殆どダメージは無い。
そう、身体的なタメージは無いが心に突き刺さる。目の前の少年と自分との素の身体能力の差が。
単純な力の差を思い知らされる。
「なっ、あ・・・・・・ふ、ふざっ!!」
「別にふざけてはいなんだけどなぁ・・・・・・ただ俺は優しいからさ。ポーションとか回復系統の魔法を使っても痣とか残る可能性はあるだろ。あんたも女だからそれは嫌だろうと思ってな」
ゼルートの半分は善意、もう半分はからかいの意味が籠った言葉を聞いた女の中で、何かが切れた。
冒険者として生きているとはいえ自身が女だという自覚はある。偶には綺麗な服を着ておしゃれをしてみたいと思う。
それでも・・・・・・目の前の少年の言葉の様に女扱いされるのは我慢ならなかった。
女だから手加減する。その言葉がゼルートの悪意も混じって女の顔を一瞬で沸騰させる。
「わ、私を嘗めるのも、いい加減にしなさいっ!! あんたみたいなのにそう言われんのが一番腹が立つのよ!!!」
「・・・・・・あらら、なんか逆鱗に触れちゃったみたいだな。それは悪かったと言っておくよ。でも、手加減しなきゃいけない程、俺とあんたに力の差がある。それはあんたの本能も、頭も理解した筈だ。それでも・・・・・・まだ戦るのか?」
「あ、たりまえよ。勝手に終わらせんじゃないわよ!!!」
「そうか・・・・・・なら、後三手で終わりだ。まずは一手」
後三手で終わらせる、そう宣言したゼルートは目でアレナとルウナに合図を送り、自分の対角線上に立てと伝える。
ゼルートがこれからどういった攻撃を繰り出すまでは分からないが、それでも自分達が周囲の人間が怪我をしない様に外れた攻撃をかき消さなければならないと理解した。
盗賊の頭を倒した時と同じ攻撃を放つ。
左手で魔力の弾丸を放ち、右手で魔力の斬撃を放つ。
弾丸に斬撃が重なり一つの攻撃へと変わる。
ここでゼルートとしては派手に終わらすぜ!! といった感じで締めくくりたい気分だったが、それ程技自体が派手ではない為、そこまで調子には乗らなかった。
ゼルートに啖呵良く言葉を返した女だったが、自身に迫って来る攻撃に対して相殺できる自信も、防ぎきる自信も無かった。
最悪の場合・・・・・・死ぬ。それだけが頭の中を埋め尽くしていた。
女は魔力体力共に尽きかけている体を無理やり動かし、何とか魔力の弾刃を躱す事に成功する。
その後ろではアレナとルウナが拳と足に魔力を纏ってゼルートの弾刃を相殺する。
「くっ!!! あいつは、どこに・・・・・・」
「二手目」
ゼルートは極度の疲労によってまともに自分を負う事が出来ていない女の武器を持っている手を蹴り上げる。
女には既に武器を離さないように握る握力が無く、蹴り上げられたロングソードが宙を舞う。
直ぐに武器を回収しようと宙に視線を向けるがそこには既にロングソードが無かった。
そして・・・・・・。
「三手目、これで終局だ」
首筋にヒンヤリと冷たい鉄の温度を感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます