少年期[297]本気になったは良いが、結果・・・・・・

「身体強化のスキルを使っただけで俺に勝てると思うなよ」


「・・・・・・あなた、そんなに死にたいのかしら」


「もしお前が俺を見てそう思えるなら、俺は更にお前の評価を下げるな」


ゼルートは言葉にもしまだお前が俺と自分の実力差に気付いてないのかという意味も含めて伝える。


勿論ゼルート自身も攻撃スキルを使えばそれは摸擬戦では無く、決闘に変わってしまう。

たかが依頼書一枚にそこまでリスクを冒す馬鹿はいない。


ただゼルートの場合は単純に依頼書を横取りしようとしてくる冒険者への苛立ち。

女の冒険者は自身のプライドがある為引くという選択肢は無い。


女も今までの経験からゼルートが自身より実力が上だと本能は理解していた。

それでも感情がそれを認めようとしない。


「本当に自分を過大評価するルーキーね」


「違うな、俺は自身に才能があると自覚している。それに努力も怠っていないと自負している。これらから来るのは過大評価じゃなく確かな自信だ」


ゼルートは自身が扱える属性魔法の多さは絶対的な才能故に習得できたと思っている。

そして習得した魔力の技能や剣術や体術等などは元の才能と積んだ努力によって得た物。


自分の力を正確に理解しているゼルートのそれはハッタリや虚勢では無く、自身と言える確かな物。

それによって表に出る過大評価に思われる態度。


以前のゼルートならば口に出さず、心の中にしまっていたかもしれない。

しかし自身の実力を隠す事を止めたゼルートの口は止まらない。


「そに比べて、あんたは随分と自分の力に自信が無いみたいだな」


「それはどういう事かしら」


女の斬撃が、動きが雑になる。

正確に体を斬ろうとしていない分、ほんの少しだけ動きが速くなるが本人すら分からない程些細な違い。


それでも経験によって鍛え上げられてきた剣術がただの暴力に変わっていく。


「本気を出して俺に負ければ、自分が本当にまだ冒険者になったばかりのルーキーより弱いんだと嫌でも理解してしまう。それが怖いからあんたは本気で俺を倒しに来れないんだよ」


「・・・・・・言ってくれるわね。もう、どうなっても知らないよ!!!!」


「その気になるのが遅えんだよ。おいあんたら、もう少し離れて見ておいた方が良いぞ!!!」


先程からゼルートが女の冒険者を煽っているのを前列の冒険者は聞こえていたため、話し合いの結果から更に戦いが激しくなることが分かり同業者達に後ろへ下がる様に伝える。


摸擬戦から決闘へと戦いのレベルが上がってからはロングソードから放たれる魔力の斬撃が周囲を飛び交う様になる。

訓練場の地面に次々と鋭い斬り込みが、小さなクレーターが出来上がっていく。


自分に襲い掛かる攻撃の殺傷力が上がった事でゼルートも回避速度を上げ、余裕を持って女の攻撃を躱し続ける。

剣術のような武を感じさせる動きは無くなり、獣の様な動作でゼルートに襲い掛かる女。

形相もまさに獣のそれ。


女のパーティーメンバーも始めていた女の表情に驚嘆している。


(・・・・・・そろそろか)


「おいおいどうしたんだ? 随分と息が上がってるぞ。汗もダラダラと流れてるし、もう限界か?」


「う、るさい!! だ、ぁまれええ!!」


常時身体強化のスキルを使い、攻撃スキルも何回も使い続けた女の魔力はほぼガス欠状態になっていた。

そもそも魔力量がそこまで多くない女にとって、先程までに戦い方は短期で蹴りを着けなければならなかった。


「ほれ」


ここで初めてゼルートが攻撃・・・・・・と言えないかもしれないが、女の斬撃を避けた瞬間に足を出す。


「なっ!!??」


本来ならば少しバランスが崩れたくらいで転ぶような軟な体幹は持っていない女だが、魔力がガス欠状態によって起こる疲労と、単純に攻撃し続けた影響で溜まった疲労が重なり転んでしまう。


しかしなんとか左腕を先に出して頭から勢いよくぶつかるのを防ぐ。


「そろそろスタミナ切れみたいだな。それじゃあ、そろそろ終わらすか」


「っ、はぁはぁ、勝手に終わらるんじゃないよ」


「いいや、終わらせる。外で待ってるゲイル達に悪いからな」


女が立ち上がった瞬間にゼルートは動き始める。

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