冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

少年期[２９９]言われずとも

ゼルートが女の首筋にロングソードの刃を当てたところで審判をしていたギルド職員が判定を下した。

「そこまで、この摸擬戦の勝者はゼルート！！！」

ゼルートの勝ちが宣言された事で、周囲の野次馬たちの反応は真っ二つに分かれている。

「おっしゃああああ！！　今日の飲み代が浮いたぜ！！」

「だな！！　ゼルート様々だ。にしても相変わらず見たい目にそぐわない強さだなぁ・・・・・・」

「うし！　これだけあれば次の依頼で必要な道具は買えそうだな」

「あんた、あの子にそんなにお金賭けてたの？　まぁ、賭けに勝ったのだから良いのだけど」

「くっそ！！！　あいつランクが自分より下の奴に負けやがって！！　はぁーーーー、今日は酒を控えた方が良いかもな」

「あぁーーーーー負けた負けた。なんなんだよあのガキの強さ。明らかにDランクで収まるもんじゃねぇーーだろ。見ために騙されたぜ」

「レートが結構拮抗してたからランクが高い方に賭けたんだが・・・・・・見事に失敗しちまったな。それにしてもあれだけ強かったらあの坊主がオークキングを倒したって話もあながち嘘ではないのか？」

賭けに勝って喜び喝采を上げる者、賭けに負けて今日の酒代が消えたと項垂れる者。

ゼルートの戦いぶりを見て、オークキングと一騎打ちをして勝ったという話が嘘では無く真実なのではと思った者。

多くの人が賭けの結果に喜ぶ者もいれば、懐が寒くなったと悲しんいる者がいた。

摸擬戦を終えたゼルートはロングソードを地面に置いてからアレナ達の元へと戻る。

「お疲れ様、ゼルート。相変わらず鮮やかな勝ち方ね」

「アレナの言う通りだな。宣言通り三手で戦いを終わらせたのもカッコ良かったぞ」

「おう、ありがとな。まぁ・・・・・・鮮やかに見える勝ち方が出来たのも相手との力量差が大きくあってこそ出来ることだけどな。っと、俺の攻撃を止めてくれて助かった」

ゼルートは先程自分が放った攻撃を止めてくれた二人に感謝の言葉を述べた。

そんなゼルートに二人は何てことは無いと手を横に振る。

「あれぐらいの攻撃なら私達で十分に対処出来るわよ。だからそんな気にする必要は無いわ」

「まぁ・・・・・・氷魔一閃を使われたら少し相殺するのが面倒だがな」

「ははは、そもそもフロストグレイブはこういった場では使わないよ。剣が無くても素手でも俺はある程度強いからな」

ある程度どころではないだろと周囲の冒険者達はゼルートに対して声には出さなかったが、心の中でツッコんだ。

自分よりランクが一つ上となれば、基本的には格上扱いになる。

その人物の戦闘スタイルにもよるが、素手がメインでないのにも関わらず、同じ戦闘スタイルでランクが一つ上の同業者を倒せる者はこの場にはいなかった。

面倒事も終わったので依頼書を受理して外に出ようとゼルートはその場から早足で去ろうとする。

「ゼルート、決め台詞は言わなくていいの？」

「決め台詞って・・・・・・俺摸擬戦や決闘に勝つ度になんか言ってたか？」

「見た目で実力を判断しない方が良いぞ、みたいな事を言っていた気がするぞ。まぁ、言ってなくとも心の中ではそう思っているだろう」

ルウナに言われた事をあまたの片隅に置き、過去の摸擬戦や決闘後を思い出す。

(・・・・・・言われてみればそんなセリフを言った事があるような無い様な・・・・・・・・・・・・・駄目だ、思い出せないな)

それっぽい台詞を言った事がある気もしなくはないが、それでも今摸擬戦で倒した女に何を言う気にゼルートはならなかった。

「あいつCランクまで上がった人なんだろ。それなら俺に言われずとも負けたっていう事実がある以上、よっぽどな馬鹿でない限りそれぐらい解る筈だ」