少年期[294]まさか女に対しても?

ゼルートが後ろのいるアレナとルウナと一緒にパーティーを組んでいるとは思っていなかった女の冒険者は言葉に詰まる。


見た目が完全に少年のゼルートの実力を見破れずとも、ルウナとアレナの強さは何となくという感覚ではあるが、自分より実力が上だと今までの経験から理解出来てしまった。


それに三体の従魔という言葉も、そんな事ただのハッタリだとは言い切れない。

ほんの少し前にリザードマンとドラゴンにスライムをテイムしている冒険者がいると噂で聞いたのは思い出し、それが今自分の目の前にいる少年だと話が繋がる。


それらの事から自分達が目の前の少年にCランクの依頼を受けるのはまだ早いと上から目線では言えない事が確定した。

しかしそれでも冒険者としての面子から、ゼルートに上から目線の発言をしておいて引き下がる訳にはいかなかった。


「確かに、あなた達ならこの依頼を受けれるかもしれないわね。自分の手足を動かさず、仲間に全て任せていたら良いのだから」


見え見えの挑発、ここでその挑発に乗ってやる意味はゼルートに無いのだが、個人的に速く面倒事を解決したいと思っていた。


「お前・・・・・・そんな対して実力が無いのに粋がってたらすげぇ小物に見えるぞ。もう面倒だから直接相手してやるよ。訓練場で一対一の摸擬戦。それに勝った方がこの依頼を受ける、それで文句ねぇよな。勿論こっちのパーティーから出るのは俺だ。そっちは好きにしろ」


先に喧嘩を売って来たのはお前だ、だからこの勝負から逃げたりしないよなという意味を込めての提案。

理に適った解決方法であるため、女は今更ゼルートの前から引くには引けない状況に追い込まれる。


ただゼルートの提案は女としても丁度良い内容だったので断る理由は無い。


「いいわ、その提案受けてあげる」


「勘違いすんなよ、お前がくそ面倒だから俺がこの提案で妥協してやるって言ってんだ」


最後まで喧嘩腰のゼルートに、女だからむごい倒し方はしないと思っていたアレナとルウナは結末が少し不安になっていた。



受付嬢に依頼書を預けた二人は訓練場へと移動し、お互いに軽く準備運動を始める。


「ねぇゼルート、結構喧嘩腰だったけどまさか勝負に勝った時に装備品とか剥ぎ取るつもり?」


アレナはゼルートが自分に絡んで来た冒険者を気絶させ、目ぼしい物を奪うという行為にそこまで忌避感は無かった。結果的に見ればゼルートに絡んできた者が悪い訳で自業自得でしかない。


ただしそれを女に対してやるのは絵面的に良くないのではと、自身が女という事もあってそう考えてしまう。


「あぁ・・・・・・それは今回考えていなかったな。まぁ、流石に女に対してそれをやると印象が悪くなりそうだからな」


「ゼルートにしては随分と優しいな。私としては容赦なく叩き潰して武器とかを剥ぎ取っていくと思っていたんだが」


「いや、単純に外で待って貰ってるゲイル達の事を考えるとちゃちゃっと終わらせた方が良さそうだと思ったかな」


三体とも一緒にいる為、退屈になる事は無いだろう。

それでも私用で待たせておくのは良くないと思い、ゼルートは今回の摸擬戦にさほど時間を賭けるつもりはない。


「さて、面倒な馬鹿に冒険者は見た目じゃないって事を教えるとするか」


「ふふ、確かにそれはゼルート以上の適任はいなささそうな役割ね」


ゼルート程外見と実力が釣り合わない冒険者さほど多くはいない。

アレナも過去に数人ほどそういった人物を見た事はあるが、それでも全員ゼルートより年齢は上だった。


ゼルートとこれから摸擬戦をする同業者にアレナは憐みでは無く同情の視線を向けていた。



「準備は終わったみたいね。それで、素手で戦うのがあなとの戦闘スタイルなのかしら」


「素手でも戦えるが別に素手がメインって訳じゃない。単にお前程度の実力者に武器を使う必要は無いって話だ」


「そう・・・・・・後悔しない事ね」


女の視線が敵意から徐々に殺意へと変わり始めているが、ゼルートには些細な変化だった。

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