少年期[283]当然で必然

アグローザの開始の合図と共にゼルートは足に力を溜め、その場から駆け出す。

勿論身体強化のスキルや自身の身体強化は勿論追加ダメージなどを付与する属性魔法は使っておらず、重力魔法による枷も外していない。


それでも素の状態で出せる最高速度で走り出す。


開始早々自分に向かって走り出してきたゼルートに対処すべく、バレスは最初の一撃はガードしようとゼルートの動きを見極めようとするが、次の瞬間にゼルートの姿は目の前にあった。


だがその姿は止まったままで動こうとしなかった。

一瞬思考が止まってしまったが、バレスは直ぐに異変に気が付き体を動かそうとする。


バレスの考えは正しかった。正しかったがその思考が止まってしまった一瞬でゼルートが目的を果たすのに事足りてしまった。


「はい、終わり。俺の残像に気付いたのは自分で言うのもなんだが良かったと思うぞ。ただ反応が少し遅かったな」


バレスの首筋にはゼルートのロングソードが突きつけられており、少し力を入れれば首と胴体を真っ二つに出来る状態だった。


ほんの一瞬。五秒にも満たない決闘時間に周囲の兵士やメイド達は目を点にし、口をポカーンとして固まってしまう者、目の前で起こった現実が信じられず自身の太ももやほっぺを抓る者。

驚き方は様々であり、どうしてもゲイルを自分の護衛にしたいリサーナも現状を理解出来ない、もしくはしたくないのかその場から動けずにいた。


「・・・・・・参りました。自分の完敗です」


「・・・・・・っ、そこまで!! 勝者はゼルート・ゲインルート!!!!」


バレスの降参宣言に少し遅れてアグローザが戦いの終わりを告げる。

そこで大きな歓声がおき・・・・・・る事は無く、ザワザワと困惑した雰囲気が漂う。


観客である兵士やメイドに執事達にはゼルートの動きが殆ど見えていなかった。

一部の兵士や騎士達にはゼルートがどの様にしてバレスの背後を取ったのか分かったが、それでもゼルートの動きは線という形でしか分からず、もし自身の前で同じように動かれれば反応出来る自信がある者はいなかった。


「まぁ、当然の結果ね」


「そうだな」


「アレナ様の言う通り当然、必然とも言える結果です。ただ、目の前で何か起こったか理解し、反応しようとしたところは多少評価すべきかと」


「ゲイルさんの言う通り、磨けば光るところはあるかもしれないですね」


「ま、ゼルート様に勝てる十代の人なんていないんだから仕方ないよね。バレスもよく反応した方だよ」


五人とも勝負の結果としては当然の結末だが、それでもバレスという少年を多少なりとも評価していた。


「だが、私と対峙した時の風と雷を混ぜた強化魔法は使わなかったみたいだな」


「ゼルート様に切り札の一つである疾風迅雷を使うのは流石に酷というものでしょう。あれに反応できるのは紛い物でないBランクやAランク冒険者。又は国に仕える騎士団の団長ぐらいでしょう。勿論向こうが同じく身体強化のスキルや魔法を使った場合の話ですが」


「そんな強化魔法まで使えるのね・・・・・・今度ゼルートに習ってみるのもありね」


「良い考えだと思いますよアレナさん。ゼルート様が扱う強化魔法は習得すれば一気に戦力が上がりますからね」


「僕ももう少しスキルや魔法の特性を考えて戦った方が良さそうだね」


ルウナは過去にゼルートが使った強化魔法を思い出し、ゲイルが疾風迅雷の凄さを説明する。

その強さにアレナは興味を持ち、今度ゼルートにやり方を教えて貰おうと思い、ラルがそれに賛同する。

ラームは自身の方が多くスキルを持っているのにもかかわらず、ゼルートに勝てるビジョンが浮かばないので自分の戦闘スタイルを考え直す。


バレスとの戦いが終わったのでゼルートはアレナ達の元へと向かおうとしたが、我慢しきれなかったリサーナが呼び留める。


「待ちなさい、ゼルート・ゲインルート!!! こ、この私と勝負しなさい!!!!」


呼ばれて振り返るとそこには杖を持ったリサーナが立っていた。


(・・・・・・バレスとの決闘が終わったのにも関わらず、今度は自分が戦おうとする考えは貴族的にはどうなのかと思う。だが、その前に何故今杖を持っているのかが気になるな。もしかしてバレスが俺に負けると分かって持って来ていたのか?)


正確にはゼルートがバレスに勝ったものの、そこそこの深手をおった状態になり、そこで事の発端である自分が勝負を挑む。勿論唯では自身の勝負を受けてくれるとは思っておらず、自身の小遣いと自分に好意を持ち、自身の気を引く為に送られて来たものと思われるマジックアイテムのアクセサリーを賭けの対象にしようと考えていた。


だが、そんな娘の考えを聞いていなかったアグローザは慌てて止めようとするが、それをゼルートが腕を横に出して止める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る