少年期[284]手を抜くどころか肩の力まで抜いて
「お嬢様、決闘の意味が解っていて俺に挑んでくるのか? 確かに俺は今ただの一冒険者だ。それでお嬢様は子爵家の令嬢。いくら決闘、勝負事とはいえ重傷を負わせてしまうのは俺の立場的には拙い」
ゼルートの言っている事は間違っていないがパーティーメンバーであるアレナ達や、従魔であるゲイル達は事情が事情ならば、殺しはせずとも審判が止めの合図を出すまでに出来る限りボコボコにするだろうと容易に想像出来た。
「でも怪我をする事はある。お互い武器と魔法を使うんだからな。それでもお嬢様は俺と戦うのか?」
「ッ、と・・・・・・当然です!!! 子爵家の娘として、一度吐いた唾は飲み込みません!!!!」
バレスとの戦いが瞬殺という結果で終わった直後に自身に決闘を挑んでくるのは普通に考えて非常識だと分かる。
ただゼルート自身も自分が色んな意味で非常識だと認識しているので断ろうとは思わない。
(それに、なんだか覚悟は出来ているって顔してるしな。どうせ負ける事は無い勝負なんだ。我儘の一つや二つぐらい付き合ってやろう)
ただ戦うとはとは言っても、勿論一割の力も使う気は無いので特に構えたりはしない。
「それじゃ、勝負開始だ」
「わ、我が手に・・・・・・」
ファイヤーボールの詠唱を唱えようとするリサーナにゼルートは小さい魔力の弾丸を指先から放つ。
放たれた魔力の弾丸は一直線にリサーナの額へ飛んでいく。
「つどいたぁ!? っ~~~~!!」
ゼルートがリサーナの額に放った魔力の弾丸は決して威力は高くなく、精々強めのでこピン程度の威力。
しかしそれでも痛い事には変わりなく、リサーナは額を手でさする。
「詠唱が途切れたら魔法は発動しないぞ。さぁ、どうするんだ?」
決して速くない速度でゼルートはリサーナに一歩ずつ近づいていく。
そんなゼルートを見てリサーナは慌てて詠唱を再開する。
「我が手に集いし、あう!!」
詠唱をするのにかなり集中してしまうのか、もう一度ゼルートが放った魔力の弾丸がリサーナの額に直撃する。
その間もゼルートは変わらずゆっくりと歩を進める。
(まだ速いか? 少しスピードを遅くしてみるか)
先程までの魔力の弾丸よりかなり速さを抑えて放つ。
するとリサーナはまたまた詠唱を中断する事になるが、額に強めのでこピンを喰らわずに済んだ。
それからまたリサーナは詠唱を開始するが、ゼルートが放つギリ避ける事が出来る魔力の弾丸を避ける為に詠唱が途切れ、ゼルートが速度を戻してリサーナの足元へ撃つ。
びっくりしたリサーナ後ろへ転びそうになり又も攻撃失敗。
そんな繰り返しがゼルートとリサーナの距離が縮まるまで延々と繰り返される。
そして距離が後三メートル程前となったところでゼルートがその場から一歩駆けだす。
その一歩で距離は殆どゼロになり、リサーナの頭の上に剣の腹がおかれる。
「さて、一応これで勝負ありだと思うんだが・・・・・・どう思いますかお嬢様?」
「っーー!!! ・・・・・・・・・・・・わ、私の負けです」
リサーナの宣言により、即興の勝負は終わる。
バレスとの決闘時には少なからず拍手や歓声の声が上がったが、分かりきった勝負だったためゼルートに拍手は送られなかったが、最後まで諦めなかったリサーナに何人かの使用人や兵士達が拍手を送る。
その後ゼルートはアグローザから約束の金貨五百枚を受け取る。
アグローザからお金を受け取った時に、リサーナもゼルートに自身のお小遣いとマジックアイテムのアクセサリーを渡そうとした。
アグローザは娘が持ってきたお金には驚かなかったが、手に持っているマジックアイテムのアクセサリーには見覚えがある為、渡すのは違う物にしないかと声を掛けるがリサーナにとってはどうでも良い物なので渡すのに丁度良い品だった。
アグローザの反応に苦笑いしながらゼルートはマジックアイテムのアクセサリーだけ受け取り、お小遣いであるお金は大事に使えと言ってリサーナに返した。
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