少年期[282]温かいどころか熱い

訓練場に案内されたゼルート達の目に入ったのは子爵家に仕えていると思われる兵士や騎士、メイドに執事などが全員ではないが多くいた。


「・・・・・・ノーザス子爵様、周りの方々は元々こうなる事を知っていたんですか?」


「正確には解らないが、どうやら君の決闘騒ぎの話を聞いた事がある騎士がいたみたいでな、話から分かる君の性格からして決闘で問題を解決するのではという話が広まったらしい」


騎士まで自身のアホ貴族との決闘を知っていると分かったゼルートは今更ながら、自身が起こした問題の大きさが身に染みて理解する。


(貴族だけでなく騎士までもがあの時の決闘を知っているなんてな・・・・・・確か六、七年前ぐらいの話だよな。まぁ、俺が決闘に勝利して得た内容を考えれば多くの人が知っていて、覚えていても可笑しくは無いか)


絡んできたアホの親の領地経営自体は他の貴族にそのまま良い値で売ったが、本邸の中にあるゼルートが要らないと判断した装飾品や絵画に家具などは売り払われ、ため込まれた財産などは全てゼルートの懐に・・・・・・ではなく両親が今のところ管理している。


それだけでもゲインルート家の懐は温まるどころか熱くなっているのだが、王都に存在する別荘までもがゼルートの物であるため、三家の貴族たちは国からほんの少しだけお金を貰って寝床を失った。


第三者ならゼルートとの決闘に負けた貴族達を少しだけ可哀想と思う人物も少数はいるかもしれないが、ゼルートからすれば完全に自業自得という思いだった。


「そうですか・・・・・・まぁ、俺には関係ない事だな」


「周囲に観客がいる状態での戦いは慣れているのかい?」


「冒険者になると面倒な輩に絡まれることが少なくは無いので、多少は慣れていると思います」


ゼルートは自分の過去を思い出し、周囲に人が多くいる状況で戦った回数を思い出す。


(大体五回ぐらいか? どの戦いでも特に周りの視線が気になる事は無かったからな。今回は完全なるアウェイだろうけど、直ぐに決めるし関係ないな)


「なるほど、それなら勝負は直ぐに終わってしまうそうだな。一応将来有望な子なんだ、手加減をしてやって欲しい」


周囲の人に声が聞こえない様にアグローザは小さな声で耳打ちをする。

それに対しゼルートも周囲の人の耳に入らない程小さな声で返す。


「安心してください。ちゃんと怪我をさせずに寸止めで終わらせますので」


ゼルートの言葉に少し安心したアグローザの頬が緩み、開始戦から少し離れた位置に向かう。

アレナ達は既に周囲の執事やメイド達がいる場所まで離れており、あまり今回の決闘に興味が無いといった表情で開始の合図を待っている。


リサーナもバレスの後方に下がっており、力一杯大きな声を出してバレスを応援している。


(本来ならバレスって奴も応援されて嬉しい筈なんだろうけど、ゲイルが護衛として欲しいからっていう意味での応援なんだよな。それじゃ個人的にはやる気が起きなさそうだ)


緊張が収まり集中しているバレスを見てゼルートは少し不憫に思う。


「よ、よよよろしくお願いします!!」


「あ、ああ。よろしくお願いします」


表情はポーカーフェイスになっていても内心ではまだ緊張が解けておらずバレスがゼルートに差し出した手は震えていた。


お互いに握手を済ませた二人は開始線に戻り、長剣を構える。


あと少しで決闘が始まると分かったメイドや執事に兵士達は自然と静かになり、いつの間にか声が訓練場から消えていた。


「それでは今からバレス・ナクル対ゼルート・ゲインルートの決闘は開始する。それでは・・・・・・・・・・・・始め!!!!」

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